第259話。闇の中に進もうとするヴィレドに、副官トレントがどうしてもついていくときかず、連れていくことに。二人が闇の中に一足入ると、そこには…?そして彼らが見たものとは一体。
第259話です。
「くっ…! こんな得体の知れぬものに、負けるわけにはいかぬ…!」
「ヴィレド様…!」
「皆、ここまででよい。この先に皇帝陛下がおわすはずだ。ここからは私一人で行く…皆、ご苦労であった。ゆっくりと後ろに下がって、階段を下りろ」
「しかし!」
「命令だ。陛下には私一人で対峙する。皆、なるべく塔から離れるように。わかったな?」
「は…はい…!」
「ヴィレド様、お気を付けて…!」
部下たちがゆっくりと下がってゆくのを背後に感じたヴィレドは、改めて扉の奥の闇を睨みつけた。
「私一人なら、背後を気にする必要もない」
「ヴィレド様、私は一緒に参ります」
それは副官のトレントだった。彼は剣を構え、一歩たりとも下がることなく、闇を見据えている。
「私はどうしても、陛下にお会いして言わねばならぬことがあります」
「そうか、確か、お前の妹は…」
「はい、陛下に召し上げられ、ひどい目にあった末に殺されました。ここまで来て…どのようなことがあろうとも、引き下がれません。どうか、私をお連れください」
「トレント…」
ヴィレドは自らの体を叱咤して剣を構えると、一つ頷いた。
「わかった。そなたにも、譲れないものはあろうな。では参ろう」
「はっ」
ヴィレドとトレントは剣を構え、ゆっくりと扉の奥にある暗闇に入っていった。
全身が闇に包まれたと思った瞬間、二人は硬直したように動けなくなった。
「う、…っ…!」
体が、凍り付いたかのようだ。否、この先に進んでは自らの命がないとわかっているかのように、体全体で進行を拒んでいるかのようだった。
カタカタ、と音がするのに気づいてヴィレドが横を見ると、かろうじて見えるすぐ隣にいる副官のトレントが、おそらくは己と同じように身を震わせていた。
彼は豪胆な男だった。いかに危険な戦場にも笑って飛び込んでいくような。それが…。
そんな男が、歯の根も合わぬほど震えている。
それほど、この部屋は異様だった。
手さぐりで進んでいくと、段々と少しばかり明るくなってきて、前が見えるようになってきた。
そして、彼らは見た。
夕闇のように暗い中、半分開きかけたほころびの瞳が、濃い紫の光をまたたかせながら浮かび上がっているのを。
赤黒い瞳がうっすらと、薄目を開くように開きかけているのが不気味で、それが開いたら…と思うだけで、彼らは背筋を凍らせた。
これが開いたら、邪気があふれ出してきて、このあたり一帯は邪気に沈み、街は壊滅するだろう。
もちろん、こんな至近距離にいる自分たちも即死であろう。
否、即死できればまだいい。じわじわと高濃度の邪気に侵され、全身の激痛と共にバラバラになるような恐怖にむしばまれながら死んでいくのだ。死んでも自由にはなれないかもしれない。
死後も、この邪気に縛りつけられ、苦しみ続けなければならないかもしれない。(続く)
第259話までお読みいただき、ありがとうございます。
ほころびが開く前に、彼らは目的を達せるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




