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第26話。雷虎の村の出身、タニアと出会う。一方領主の館の地下にあったものは…。

第26話、第一部完結編です。

「そうだったのね、マ・リエ。あなたのお母さんはきっと幸せだったと思うわ。そんな辛い思いをして聖銀様と融合して、私たちの世界に来てくれたのね。ありがとう」

 私の隣に座ったサラが、涙を拭いながらそう言ってくれた。

「こちらこそ、突然異なる世界に放り出された私を温かく迎え入れてくれたユニコーンの村の皆さんには、とても感謝しているわ。特にサラ、あなたは私にとてもよくしてくれたじゃない」

「オレもいるぞ」

「そうねルイ、お隣のあなたたちには本当にお世話になってるわ」

「オレはただの護衛だがな。しかもそれすら」

 そう苦笑いするダグに、私は笑いかけた。

「ただの、どころじゃないわ。あなたがいてくれたおかげで、私たちがどれだけ助かったことか。自信を持って、ダグさん」

「そう、だろうか。だといいのだが…それと、ダグで頼む」

 ダグの笑顔が深まるのを見て、私は頷く。

「わかったわ、ダグ。皆、ありがとう。私、皆さんと出会えて本当に良かった。こちらの世界に来て歌で皆を癒してあげられた時、私は本当に幸せでした。これからも精進していきたいです」

 ちょうどお茶を飲み終わる頃、トリスラディ様は立ち上がって私たちを手招いた。

「それでは、今宵お泊りいただく部屋へフィルに案内させましょう」

「えっ、宿を手配してくださるのではなかったのですか?」

「そう思ったのですが、この館にも客室はありますでな。マ・リエ殿とはまたお話もしたいですし、この館にお泊りいただけませぬか。ここは首都の中央にありますし、どこへ行くにも便利ですぞ」

「そ、そう言っていただけるなら…ありがとうございます」

「とんでもない。雷虎の村までも遠かったというのに、このサンガルまでおいでいただき、お疲れのことでしょう。ユニコーンの村へは早馬にて知らせを出しますので、しばらくの間はこのサンガルにて観光でもなさってゆっくりしてください」

 そうね、せっかく首都に来たのだもの。少しはゆっくりしてもいいよね。嬉しいな、お土産くらい買いたいし。

「雷虎の村のこと、きちんと御礼を出させていただきます。またご滞在中の費用に関してはご心配なさらないでください。それでは…」

 そうトリスラディ様が話すのを聞きながらフィルが執務室の扉を開くと、廊下には一人の女性がうずくまっていた。

 否、土下座していた。

「タランディアナ!?そなた、こんなところで何をしておるのだ!」

 温厚なトリスラディ様もさすがにビックリされたのだろう、思わず大声を出して後ずさりしたので、私にも彼女がよく見えた。

 タランディアナと呼ばれた女性は顔を上げた。薄い金髪に金色の瞳、縦長の獣の瞳孔をしている。よく見れば彼女の背後には長く伸びた虎の尻尾があった。

「雷虎の村の出身者として、此度のこと是非とも御礼を申し上げたく、お待ちしておりました」

 えっどうしてそれを。

「私はタランディアナ・ニーア。タニアとお呼びください。早馬でセレスト様が雷虎の村を救った方々と共にご帰還なさると聞いたのです。あなた方がそうなのですね?」

 ぱたん、と廊下に虎の尻尾が打ちつけられた。薄い金色に濃い茶色で縞々が入っていて、ふかふかでとても綺麗だ。

 まるで日本の着物のように、左右で合わせる黒い服を着ている。そのためか目立つ胸元はとてもふくよかで…あー…私との胸の格差をまざまざと見せつけられてる感じ。目下にうずくまってるから、上から見ると余計大きく見えるなあ。はあ。

 ウエストを赤い紐で縛って、下は黒いズボンを穿いているし、袖口はぴったりしているから、なんだかまるで忍者みたいな恰好だ。

「とても待ちきれなくて、ここでお待ちしていました」

「あー…マ・リエ殿。彼女は雷虎の村の出身者で、トリスラディ様の配下です。ぜひマ・リエ殿に御礼をと…」

「あっあなた様がそうなのですね!この度のこと、まことに…えっ…は、は、はあああ…っ」

 私を見たタニアの様子が突然おかしくなり、私たちを先導していたトリスラディ様やフィルの足元を四つん這いのままあっという間に押しのけてきたと思いきや、長いスカートを穿いた私の脚にがっと抱き着いてきたものだから、私は仰天した。

「きゃっ!」

「えっ?」

「こっこら!」

 私は悲鳴を、他の皆もそれぞれ声を上げたが、タニアは私の脚を離さず、それどころかスカートごしにすりすりと頬をすり寄せてくる。

「あっあの、ちょっと…!」

「うにゃ~ん…すごい…なんて綺麗な魔力…」

 そう言うなり、タニアの姿が変化した。

 うわっ虎だ!大きい…!確かに雷虎の村で見た虎型の人と同じだけど、その毛色は私が見た人よりも薄い金色に輝いている。

 その金色の全身の毛をぶわっと膨らませ、タニアは私の足元にゴロリと寝転んだ。巨大な虎の行動は、猫そのものだった。

 真っ白なおなかの毛がふかふかで、思わず顔を埋めたくなる衝動に私はごくりと喉を鳴らした。

 や、柔らかそう…も…もふりたい…。

 タニアの喉ははっきりゴロゴロと鳴っていて、彼女は私の足にもふもふの頬を擦り付けながら甘えた声を出した。

「すごーい。あなたきれーい。つよーい。んにゃー」

 んにゃー?

 私の足に体をこすりつけては靴をペロペロなめて、また仰向けになってゴロゴロ。背中を床にこすりつけてひねりながら伸びたり縮んだり。

 こ、この動き見たことがある!大きさとか色合いは全然違うけど、近所のノラネコにマタタビあげた時に似てる!

「こんなに強い魔力ははじめてにゃ。すごいにゃ。私、あなたについていくにゃ」

 えっ?言われた内容よりも、リアルなネコ型…いやトラ型で語尾ににゃ、とついてることのほうが衝撃で、私はその場に立ちすくんだままタニアがゴロゴロしてくるのに任せてしまっていた。

 あまりの光景に呆然とする一同の中で初めに我に返ったのはフィルだ。さすがはやり手と評判のお傍仕え。

「な、なんてことを!お客人に失礼だろう、ヒト型に戻りなさいタニア!」

「タランディアナ、これ、マ・リエ殿から離れなさい…!」

 フィルの言葉に続いてトリスラディ様がそう声をかけたが、タニアはゴロゴロするのをやめなかった。

「…あー…申し訳ございません、マ・リエ殿。彼女のこの状態、父上や私と初めて会ったときと似てますね。でもここまでじゃなかったですけど。虎の姿にもならなかったですし」

「姫様、マ・リエ姫様。私の村を救ってくださってありがとうにゃ。私、なんでもするにゃ。恩返しについてくにゃ」

「ええっ!?」

「こんな強い魔力初めて…すごい…トリスラディ様よりずっと強い…私もう離れられにゃい…この魔力…聖銀様…あなたは聖銀様ですにゃ?すごいにゃ…」

 えっば、ばれてる!?どうして!?

 タニアを私から引き離すのをあきらめたトリスラディ様が、ひどくすまなそうに言う。

「本当に申し訳ないマ・リエ殿。彼女は竜の魔力に酔ってしまうのです…強ければ強いほどに…。ゆえに、あなたの正体もわかってしまったようで」

「な、なにやってるんだ!マ・リエから離れろこの虎め!」

 私の背後で引いていたユニコーンのうち、いち早く立ち直ったらしいルイがあわててタニアを引きはがそうとしたが、虎の顔でシャーッ!と怒られて思わずたじろぐのに、私もあわてる。

「あ、あの、やめてください。とりあえず離れてもらえませんか?」

 そう声をかけると、タニアは腹を見せたままビクッと動きを止め、私を見上げて金色の瞳を数度ぱちぱち、と瞬きした。

 それからくるりと腹這いになると同時にヒト型に戻り、再び土下座の体勢になる。

「これは失礼いたしました、聖銀のマ・リエ姫様。改めまして、我が村を救っていただきまことにありがとうございます。このご恩返しに、姫様をお守りすべくぜひ御供に加えていただきたく存じます」

 ええー…私、あなたのこと全然知らないんですけど。それに顔を上げて私を見たタニアはキリッとした顔をしていたけれど、さっきの虎の時とのギャップが何ともいえない。

 困っていると、セレスト様がそっと耳打ちしてきた。

「断るとずっとついてくると思いますよ…」

「ええ…」

「父上の時もそうでした。何しろ虎ですので、気配を消すのは上手いのです」

 あっセレスト様遠い目になってる。これは前にやられたんだな…。

 するとそれを受けて、トリスラディ様が苦笑いしながら言った。

「護衛として連れていっても損はないと思いますよ。おそらく今の時点でマ・リエ殿以上の魔力の持ち主はいないでしょうから、そう簡単に他の者に懐くこともないでしょう」

「護衛ならオレがいるが、これから多いに越したことはないと思う。雷虎ならその強さは折り紙付きだ。彼女のことはこれから知っていくとして、とりあえず連れていくのはどうだろう」

「ダグがそう言うのなら…」

「やった!私、姫様のお役にたちますから!」

 ぱっと立ち上がったタニアが私の両手をぎゅっと握って、目を覗き込むようにしてそう明るい声を出した。立ち上がると、同じ女性では私より背が高いサラより更に背丈があるようだ。それに動きといい、十分に鍛えられていることがよくわかる。

 にっこり笑うと人懐こそうだし、悪い人には見えないし。

「えっと…とりあえず、お茶でも一緒にいかがですか?」

 まだぎこちなくそう誘ってみると、タニアはものすごく喜んで私の両手をぶんぶんと振り回し、ルイに再び制止されていた。

「はい喜んで!光栄です姫様!ありがとうございます!」

「その姫様っていうのはやめてくれませんか、私は鞠絵です、そう呼んでください」

「マ・リエ姫様!」

 あー…。わかってはいたことだけど、やっぱり鞠絵呼びは無理、と。あと姫様もやめる気はなし、と。

 まあ、そこはおいおい直してもらえばいいかなあ。

 こっそりずっとストーカーみたいについて来られることを考えれば、正式に仲間に加えてしまったほうがいいかもしれない。

「うにゃー…ちょっと気を抜くと、聖銀の姫様の魔力に酔っ払いそうになります…でもついていくために慣れないとですね…」

「そ、それは…ぜひ慣れてください…あと、私が聖銀竜との混じりものだということは、内密でお願いします…」

 こうして、押しかけ従者が一人増えてしまったのだった。


   ◆ ◆ ◆


 鞠絵たちをフィルが部屋へ案内するため連れ出した後、アラルとセレストは領主の館の地下深くへと潜っていった。

 何枚もの頑丈な扉をくぐると、やがて一つめの封印が現れる。

 アラルはそれを手をかざすことでくぐり抜け、また扉を開けた。

 その先の扉の前にはまた封印がある。

 そうしていくつもの封印を通り抜けた後にあったのは、土や岩がむき出しになった行き止まりだった。

 二人の目線の先にある岩肌には鋭い亀裂が一筋走っており、その中央にはまるで目のように丸くなっている部分がある。そこはうっすらと開きかけているかのように見える。

 裂け目をジグザグに縫いつけるように、かつて聖銀竜が施したという強力な封印があり、その周辺には地竜たる領主の力によって更に数段階の封印があった。

 真ん中の部分を封じた部分がほころびかけてきているのを、アラルとセレストは二人で手を掲げ、共に全身の力をこめてかろうじて強化し直した。

 真竜である彼らにできるのは、封印に精一杯の力を注ぎ、これ以上ほつれないように維持することだけだ。

 それでもじわじわと、ほころびは広がってきているように見えた。

 そうなったら真竜の力ではどうしようもない。封印を施せるのは聖銀竜だけなのだから。

「父上…何故マ・リエ殿に聖銀様の目覚めをもっと強く願わなかったのですか?このままでは、封印は長くはもちませぬ」

「そうだな…しかし不完全な状態で覚醒されても、力を発揮することはできぬだろう」

「悪い病気が流行ってきているのも、魔物が出てきているのも、年々作物がとれづらくなってきているのも…世界の歪みとほころびがあちこちで大きくなっているからではないですか?まだ他種族の目にはわかりませんが、いやな気配のするところが何か所も出てきております」

「そうだな…しかし我ら真竜は、聖銀様が傷を癒しお目覚めになる時まで、できることをするしかない。我ら地竜ができるのは、かつての聖銀様が施されたこの封印をかろうじて維持することだけだが…私とそなたで力を注げば、今のところどうにかなるだろう」

「しかしそれでは間に合わないのでは…」

「もう少しだけ。もう少しだけ…様子をみよう」

 聖銀竜の目覚めが早いか、虚無の目があちこちで開き始めるのが早いか。

 領主アラルは伝説の聖銀竜の目覚めに、心からの祈りを捧げた。

「…虚無の目が開き世界が滅びに瀕した時、一頭の聖銀竜が降臨する。その聖銀竜は世界を支え、神金竜を目覚めさせ、多くの聖銀を従えて、開いた虚無の目を閉じさせ封印するであろう…」

 それは古くから真竜たちに伝わっているという予言。

 アラルは聖銀竜の肌と同じ聖銀色の髪と、聖銀竜と同じローズクォーツ色の瞳をもつ少女マ・リエの姿を思い浮かべ、封印の光を見つめて今はその予言を信じるべく、己にできることをすると心に誓ったのだった。(第一部完・次回より第二部)

第26話までお読みいただき、ありがとうございます。

今回でこのお話の第一部が完結となり、次回よりは第二部に突入いたします。

引き続き、また読んでいただけましたら嬉しいです。

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