第256話。黒鋼竜たちを神金竜ヴァレリアのいる丘まで案内する者がやってくる。その頃闇の中で笑う者が…。それは誰なのか。そして帝都では、建国祭によりにぎわう人々の中、一人の少年が…。
第256話です。
丘まで案内するヴィレドの部下が一人、黒鋼竜の中に紛れて大門をくぐっていた。彼が馬に乗ってやって来て、ダグたちに礼をする。
「私がご案内いたします。こちらへ」
「よろしくお願いします」
「ただ、私が案内できるのは丘までです。そこから先は私にも権限がありませんので…」
「大丈夫よ」
タニアが微笑む。
「きっとマ・リエが兵士たちを味方につけていると思うから、誰かに聞けばいいと思うわ」
「そうだな」
ダグが頷く。
「角にかぶせた飾り物も早いところ取ってしまいたいし…早く行こう」
ダグはタニアを乗せて、案内人と共にヴァレリアのいる丘へ向かって走り出した。
青い紫色にも、赤い紫色にも見える闇の中、くつくつと低い笑い声が響いた。
豪奢な衣をまとった初老の男が、唇を引き上げて肩を震わせて笑う。
彼の見上げる先には、巨大な瞳があった。
その瞳を縛る糸のようなものが緩んで、瞳はうっすらと開き始めている。
どす黒い、タールのような邪気が、その瞳の端から涙のように滴っていた。
男はそれを楽し気に見つめ、段々と大きく笑い始める。
「クックックッ…もうすぐだ…もうすぐだ。クックックッ…」
彼の笑い声に応えるかのように、闇はその色味を変えて、どろりと彼にまといついていく…。
帝都では、参加する商人や芸人たちによって、建国祭がにぎやかに、華やかに進められていた。
商人たちはたくさんの露店を道端に出して、値引きをして人々を惹きつけていたし、露店で食べ物を買った人々があちこちで歩きながら、または道端に座って楽し気に騒ぎながら飲み食いをしていた。
芸人たちは各々の芸を披露し、人々はそれを見ながら手を叩き歓声を上げて喜んでいた。芸人たちに与えられる銀貨や銅貨が舞い踊る。
普段は暗く影に沈んでいる路地裏までも、明るくにぎやかに照らされているようだった。
そんな路地に一人の少年が、足早に入っていった。
喧噪から離れて、下町のスラムに近い貧しく寂れた道を辿り、ひどく古びた廃屋と間違えそうな小屋の扉を開く。
扉は歪んでいて、少年は苦労してゆっくりと開いた。(続く)
第256話までお読みいただき、ありがとうございます。
少年は家にたどりついたのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




