第250話。元アトラス帝国大将軍ヴィレドに、周囲の兵士が聖銀たちはあの人数で大丈夫なのかと心配する。ヴィレドの答えは…。一方、神金竜ヴァレリアのいる丘に近くなったマ・リエたちは…。
第250話です。
階段を上り始めると、ヴィレドの隣で剣を構えながら走る兵士が話しかけてきた。
「聖銀様たちは、あの人数で大丈夫でしょうか?」
まるで少女のように見えるマ・リエやミンティ・ラナクリフのことを心配しているのだろう。
ヴィレドはふっ、と笑って答えた。
「水竜の砦で、三万の軍勢を屈服させた御方だぞ。人間なぞ、どれだけいようとも問題はあるまい」
噂には聞いていたが、竜とはすごいものなのだな…と、ヴィレドは感心し、そして彼女にいつもぴったりとついていたルイのことを思った。
「真竜の風の長殿と、ユニコーンたちもついている。マ・リエ殿たちのほうは、心配なかろうよ」
ルイとダグ、そしてサラまでもがユニコーンとの混じりものであると知った時の衝撃は、今でも忘れられない。
全員カルロスの仲間の人間たちだと思っていたのに、本当にうまく化けていたものだ。
「すっかりだまされたな」
「は?」
「いや、なんでもない。最初のフロアが見えてきたぞ、気を引き締めろ」
「はっ」
できるだけ、煙玉の効果が上まで効いているといい。
マ・リエは人間たちの被害が出ないか、とても心配していた。
彼女の望みは、できるだけ叶えてやりたい。
マ・リエには、そう思わせる何かがあった。
これも聖銀の力なのか。
マ・リエの姿とその力、ヴァレリアの姿とその力、そして黒鋼のおばばの姿と力。
それを思った時、ヴィレドの口から知らずこんな言葉が漏れた。
「神金は華やかで高貴、聖銀は優しく気高く、黒鋼は誠実で剛健である…」
それはかつて読んだ古い本に書かれていた伝承の一文だった。
隣で兵士が不思議そうに聞いている。
ヴィレドは顔を上げ、きりりと目元を引き締めて、誰かが起きている気配のしない最初のフロアに駆け上がった。
◆ ◆ ◆
ぐんぐんとスピードが上がる。ルイがそんなことをするはずがないとわかってはいても、私は振り落とされる恐怖に彼の白い首に必死にすがりついていた。よそを見ている余裕などなかったけれど、ボルドーさんとルシアンも、馬に懸命に張り付いていた。
耳元で風がひゅうひゅうと音をたてる。街中の石畳ではなく、地面を蹴る馬たちの規則正しい足音が、風の音に混じって聞こえてきた。
「そろそろだぞ」
ルイの言葉に顔を上げると、目の前には小高い丘が見え始めていた。丘の周辺には兵士たちがいる。
「マ・リエ、スピードを落とす。兵士たちを轢いてしまうかもしれないからな。兵士たちには『命令』を出して、大人しくさせてくれ」(続く)
第250話までお読みいただき、ありがとうございます。
とうとう神金竜ヴァレリアのいるという丘までやってきましたね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




