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第25話。首都サンガルに到着した一行。その大きさに驚き、領主の館に入って領主と話をする。

第25話です。

 首都サンガルに着くと、私たちは早速領主アラル・トリスラディ様のところへと案内されることになった。

「お疲れとは思いますが、まずは父に会っていただきたいのです。その後、宿を手配いたしますので」

 首都は先日行商で行った街とは比べものにならないくらい大きくて、大通りは全て中心に向かって石で整備されていた。

 店舗の大きさや品ぞろえも違う。建物の大きさも。遥か向こうには高い塔も見えた。

 私とユニコーンたちは初めて見る規模の街並に、感嘆の声を上げた。

 行き交う人々も物量も、以前行った街よりも断然多い。幌のついた馬車の後ろから身を乗り出してキョロキョロする私を、セレスト様は苦笑して引き戻した。

「危ないですよ、マ・リエ殿」

「あっすっすみません!でもこんな大きな街は私、初めてで!」

「そうですか。でもせめて馬車の内側から眺めてください。あなたに何かあったら私は父に怒られるだけではすみませんからね」

 にっこりと笑いかけられて、すごすごと馬車の内側へ戻る。でも胸の高鳴りはおさまらなくて、疲れてすっかり眠ってしまっているナギを起こしてしまわないかと心配なくらいだった。

 あっあの人には動物の耳がある…あの人は足がカンガルーなのかな?すっかり人間みたいに見える人もいるけど、ガヤガヤと行き交う人々の多くが混じりものなのが、その魔力の気配から分かった。ここしばらくで、私にも魔力の流れが分かるようになってきたのだ。

「マ・リエ、マ・リエ」

 幌馬車の横から後ろに回ってきたユニコーン姿のサラが、興奮した様子で話しかけてきた。

「すごいわね、私は街に行くと人や物が多くてびっくりするけど、ここはあの街どころじゃない賑わいだわ!」

「そうね。さすがは首都ね。こうして馬車が進んでいくのもゆっくりがやっとなくらい、人が多いわ」

 大通りが広いから馬車もすれ違える。道端には露天もドアのあるお店も並んでいて、大勢の人々が会話を交わしながらお店を眺めたり、商売をしていたり、飲み食いをしたりしていた。

 あっあれいいな…私も飲みたい…ごくり。

「後でお茶をお出ししますから」

 私の喉の音を聞きつけたのか、セレスト様が笑う。いやだ恥ずかしい。

 サラは私と同じ飲み物を売っているお店を見つけて、やっぱりごっくりと喉を鳴らした。

「皆さん、喉が渇きましたよね」

「はっはい、すみません」

 あわててにっこりしてみせて、また街並を眺める。まるで以前の世界の繁華街に戻ったみたい。違うのは露天が多いことと、道行く人々に人間がほとんどいないこと。

 そんな石畳の大通りをセレスト様と一緒に馬車で揺られて行くと、やがて街の中心に大きな建物が見えてきた。

「あれが領主の館です」

 ええっ?あれが?まるでお城みたいに大きい。そう思わず声を漏らすと、セレスト様は苦笑いをして首を振った。

「領主の館として使われているのはほんの一部なのですよ。裏側の建物は様々なイベントを行ったりするのに使われていますし、端のほうの小さい建物はそこで商売を営んでいる人たちがいます」

 そう言われれば、館の一部にも屋台やお店が並んでいる。奥の方にもお店があるようだ。

 もうしばらく行くと、大きな門が見えてきた。

「この門から先は実務が行われる領主の館となりますので、一般の方々は入れません。すみませんが御者の方々はここまでで」

 ここまで馬車を御してきてくれた人々に御礼を言うと、彼らは笑顔で私に挨拶して門の外で降りてくれた。

「お帰りなさいませ、セレスト様」

 門番の人たちが頭を下げて、てっぺんに金色の飾りのついた大きな黒い柵で作られた門を開いてくれる。

 二人の人たちが走ってきて御者台に上り、馬車を門の中に進めてくれた。大した距離ではなかったが、館の大きな扉の前に私たちはようやく到着する。

「さあ、着きました。お疲れ様でした」

 セレスト様が先に降りて、私に右手を差し出してくれる。ここ数日の移動の中で少しは慣れたけれど、こんなふうにお姫様みたいに扱われるのは前の世界ではなかったことだから、こちらの世界では当然なのかもだけどまだちょっと照れちゃうな。

「ありがとうございます」

 せめてきちんと御礼を述べると、セレスト様はにっこり笑ってくれたので、少し安心できた。

「セレスト様!お帰りになられたのですね、あなたはいつも飛び出していかれるから…」

 馬車から降りた私に、セレスト様がこっそりと耳打ちする。

「お話した、傍仕えのフィルですよ。彼は犬との混じりものなので、耳がいいんです」

「聞こえてますよ!あなたが乗った馬車がこちらに向かっていると、早馬で知らされたのです。それより大切なお客人がいらっしゃるとアラル様から窺っております。その方々がそうなのですか?」

 ヒト型になったエルに一礼したフィルは、私と、やはりヒト型となったユニコーンたちを見回してそう問うた。

 よく見れば、彼は背中まで長く垂れた白銀の髪をしていたが、その頭には同じ色の小さな犬耳がついている。

「わっ」

「?」

 初めてすぐ間近で見る獣耳だ…!さ、触りたい…!

 思わず声を上げた私をフィルは不審気に見たが、セレスト様がこの人たちの紹介は領主様のところでと言ったので、口元を引き締めて頭を下げた。

「かしこまりました。失礼いたしました」

「いえ、とんでもない。顔を上げてください」

「ありがとうございます。それではご案内いたします。皆様こちらへ」

 がっちりした扉の中に一歩入った、その時。

「?」

 私は足を止めた。

「マ・リエ、どうした?」

 やっぱり鋭いルイが私を覗き込んで問うてきたけれど、私は答えることができなかった。

 なに…この感じ?

 私の中のナギがごそり、と動いて、ほんの少し目を開いたのが分かった。

 これって…雷虎の村とはまた違うけど、何かおかしな感じがしない?気味が悪いっていうか…背中をざわざわと、いやな気配がせり上がるような?

 けれどその気配はすぐに消えうせたので、ナギは開きかけた目を再び閉じた。

 気の、せいかな。

 疲れてるしね。

 少し気配を探る真似事をしてみたけれど、もう何も感じ取れなかったので、私は気のせいと片づけてルイを振り返った。

「なんでもないわ。ちょっと疲れただけ」

「…そうか。ならいいんだが…何かあったら、すぐにオレたちに言うんだぞ?」

「うん、わかってる。ありがとうルイ」

「どうかしましたか?」

 白銀の髪をしたフィルが振り返り、私を見つめて問いかけてきた。

「いえ、なんでもないです」

「そうですか。ではこちらへどうぞ…ア、アラル様!?」

 フィルの言葉に振り返ったエルが驚いて大声を上げる。

「トリスラディ様!わざわざこちらまでいらしてくださったのですか!?」

 えっトリスラディ様って領主様だよね!?驚いて顔を上げた私の視界に入ったのは、艶やかな黒い髪をし、やはり黒いヒゲをたくわた、こちらへ歩いてくる壮年の男性の姿だった。

 わあ、大きい。こちらの世界に来てから身長が少し縮んだせいか、余計大きく見える。見上げた領主様は私の目にはまるで小山のように、雄々しく頼もしく映った。

「トリスラディ様、こちらがマ・リエ殿でして…」

 エルがそう紹介するまでもなく、領主様の黒い瞳は私をまっすぐに見つめていた。黒いヒゲに囲まれた唇がわなわなと震え、思わずといったふうに低い声が漏れた。

「おお…!あなたが。確かにあなただ。このアラル・トリスラディ、お会いできるのを心待ちにしておりました」

 あっ…この方も地竜、真竜なんだよね?ということは、セレスト様の時と同じように、会っただけで私が聖銀竜との混じりものだとわかったということよね?

「ここでは話もできませぬ。どうぞこちらへ」

 領主様に広い廊下を直接案内されて着いたのは執務室だった。

 さすが、他の扉と違って立派な装飾が彫り込まれている上に大きくて、重厚な感じだ。この中でいつも領主様はお仕事をしているんだなあ。

 執務室の中はどれほど豪華なものかと思いきや、一歩中に入るとそこは木製の家具と革張りのソファのある、すっきりとしつつ重みを感じさせる空間だった。

 びっしりと書類や書籍が収まった本棚に囲まれた部屋の中央に、ダークウッド色のソファが向かい合って置かれている。私たちは同じような色味の木製のテーブルを挟んだそのソファを指し示された。

「どうぞ皆様、こちらへ。今、お茶をお持ちいたします」

「あ、いえ、どうかお気になさらずに」

 私とユニコーンたち三人、そしてエルの五人が座っても余裕のあるソファの向かいに、領主アラル・トリスラディ様とその息子のセレスト様が腰かけた。

「早速ですが、マ・リエ殿」

「はい」

「あなた様が、聖銀様との混じりものであることはわかりました。しかし、聖銀様はとても弱っておられるように、私には見受けられますが…いかがか」

 ああやっぱり、この人にはわかったんだ。しかもセレスト様にはわからなかった、ナギが弱っているってことまでも。

「はい、そうです。ナギが私と融合したのは、傷を負って命の危機にあったからです」

「そうでしたか…少しだけでも、聖銀様とお話することはできませぬか?」

 領主様はソファから身を乗り出すようにして、ユニコーンたちとエルに挟まれて座っているため真正面にいる私を見つめた。

 そんな期待に満ちた瞳で見つめられてもなあ…。

「すみません、ナギはその負った傷を癒すため私の中で眠っているので、お話することはできないと思います」

「少しだけ…ほんの、少しだけでもできませぬか?」

「はい…さっき少し目覚めかけたのを感じたのですが…雷虎の村で私の歌に力をくれたので、無理をかけたのだと思います。すぐに目を閉じてしまって、それきり気配がありません。ですから、お話はできないと思います…すみません…」

 聖銀色の頭を下げると、領主様はしばし私をじっと見つめ、それからゆっくりと体を起こした。黒いヒゲの中の口からはああ…と大きなため息が漏れて、私はとても申し訳ない気持ちになったけれど、ナギが起きそうにないことはわかっていたのでどうしようもない。

「…そうですか。こちらこそ、無理を言って申し訳ございません。それでは目を覚まされましたら、是非ご連絡をくださいませ。早急にお話があるのです…すぐにお窺いいたしますので、よろしくお願いいたします」

「わかりました。お約束いたします」

 領主様の気配はとても切羽詰まっていた。雷虎の村の一件といい、もう安定していると思っていた世界のあちこちで歪みやほころびができかけているという話が、急に現実味を持って感じられた。

 でも傷を癒さない限りは、ナギに世界をどうこうする力は出ないだろう。確か本人もそう言っていたし。雷虎の村の時のように、私が必要とするときには目覚めて力を貸してくれると言っていたけど、世界を救うためには傷を癒さなければならないって。

 それからは、フィルが淹れてくれたお茶を飲みながら、領主様と様々な話をした。お茶はいい香りがして、心を落ち着かせてくれた。

 ユニコーンの村のこと、街でのこと、雷虎の村のこと、それに私自身がどうしてナギと融合したのかという話も。

 その話は初めて聞くユニコーンたちも、驚きながらもじっと聞いていた。(続く)

第25話までお読みいただき、ありがとうございます。

次回でいよいよ第一部が終結となります。

その後もお話はまだ続きますので、また読んでいただけましたら嬉しいです。

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