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第246話。にぎやかな街の様子を見て、人前で演奏することが大好きだった演奏家の両親のことを思い出すマ・リエ。そして彼女が歌う、人々を逃がすための歌とは。

第246話です。

私のお父さんとお母さんも、こんなところで演奏したかったかしら。

 人の前で演奏することが、とても好きな人たちだったから。

 お父さんは小さい楽団でファーストヴァイオリンをやっていて、お母さんはそこでフルート奏者をしていて、そこで二人は出会って結婚して、私が産まれたんだって、小さい頃にお母さんに聞いたことがある。

 けれどその楽団は私が物心つく前には経営が悪くなって解散してしまって、お父さんとお母さんを雇ってくれる楽団も見つからず、お父さんはお母さんと小さい私を養うためにサラリーマンになった。

 でも年齢が高くて、楽団にいたためサラリーマンをしたことのないお父さんを雇うところは、いわゆるブラック企業みたいなところしかなくて、お父さんは朝早くから夜遅くまで仕事していた。

 お父さんは私が起きる前には出社していて、寝たあとに帰ってきていたから、お父さんの顔はあまりはっきり覚えていない。

 それでも私を遊園地に連れていこうとして、ヘトヘトになるまで働いて、信号無視した車に轢かれて亡くなってしまった。

 そのあとお母さんは、一人で私を育ててくれて、私が高校を卒業する前には難病にかかってしまった。私は大学に入学するのをあきらめて働いたけれど、そのあとお母さんは亡くなってしまった。

 二人とも、演奏家としての人生を歩みたかっただろうけど、それは叶わなかった。

 私がもう覚えていないくらい小さい頃、近くの小さなお祭りで、お父さんはヴァイオリンを、お母さんはフルートを吹いたのだって、お母さんは楽しそうに話してくれたっけ。そのとき、幼い私も一緒に歌ったんだって。

 幼い頃から大人になるまで何度も何度も聞かされたくらいだから、よほど楽しい思い出だったのだろう。

 だから、こんな大きなお祭りで、きっと演奏してみたかっただろうと思う。

 でもそれはもう叶わないから、私がお父さんの分も、お母さんの分も歌うわね。

 きっと、喜んでくれるよね。

「それじゃあ、行きましょう」

 私が声をかけると、ルイが先頭を切って歩き出す。

 首をアーチ型に曲げ、足を跳ね上げるようにして、いかにも旅芸人の馬らしく。

 ルイと同じように花とリボンときれいな布で飾りたてられた馬たちが、歩き出したルイに続く。

 私は息を吸い込み、歌い出した。

 私は魔道具の、私の元いた世界でいうところのマイクを持っている。魔道具だから線はないが、マイクで受けた音を拡散するスピーカーにあたる部分を、後方のうち四人が馬にくくりつけて城と、城とは大きな道を挟んだ家々へ向けていた。

 さらに私の歌を、私が乗った先頭のルイと、最後方についた風竜の長ラナクリフ様が、こっそりと風魔法で広範囲にまき散らしてくれている。

 これで、城や家の中にいる人たちにも、私の歌が届けられる。

 さあ、歌いましょう。

「ラララ、祭りや祭り、めでたきこの日に歌いましょう

 国が生まれた今日この日に、そこに住む者に祝いの歌を

 みなの者に祝福を授けましょう

 その存在がよきことと これから幸せになることを

 祈って歌を 歌いましょう

 さあ皆さん 家を出て お城を出て 歩きましょう

 大きな木の下にいいことがあるわ 歩きましょう

 さあ皆さん 家を出て お城を出て 近くの大きな木の下まで歩きましょう…

 そして木の下で、夜まで祝い遊びましょう」(続く)

第246話までお読みいただき、ありがとうございます。

マ・リエの歌に人々が反応してくれるとよいですね。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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