第242話。今は亡き姉に向かい言葉を告げる、マ・リエの中にいる聖銀竜ナギ。その後赤ん坊の竜たちを抱いて歌うマ・リエに話しかけるナギは、何故か申し訳なさそうにしていて…?
第242話です。
ナギは巨木の上のほう…天に向かって首を伸ばし、鮮やかなローズクォーツ色の瞳を細めた。
『姉上…我はもう、十分に幸せだ。本来ならば、傷つきたった一人で一万年後の世界に帰ってくるはずだったのだろう。だが、マ・リエが我を救ってくれた。我は一人ではなかったよ。こうして姉上の想いも知ることができた。姉上が晩年幸せだったように…我もいま、幸せだ』
ナギはその瞳を閉じて、囁くように呟いた。
その呟きを聞いた者は私と、ナユの遺した巨木だけだった。
『愛している…ねえさま』
幼い頃のようにそう呼んで、ナギの姿はかき消えた。
私の中に戻ったのだろう。
ゆっくり休んでね、ナギ。
かつての黒鋼竜の領地から戻った私たちは、ヴィレドさんたちも含めて、黒鋼竜たちや真竜たちと、何度も打ち合わせをした。
ヴィレドさんの作戦だけでは、何かあったときに対応できないからだ。
ヴィレドさんはあちこちと連絡を取り合い、私たちと練った作戦を進めているようだった。
ガイウスさんとカルロスさんは、ヴィレドさんの作戦がうまくいくまで、黒鋼竜の領地に残ることとなった。
ガイウスさんの安全は黒鋼竜が保障したのだ。もし作戦がうまくいかなかったとしても、居場所を追い出されるようなことはない。
また、こんな言い方はいやな感じではあるが、ヴィレドさんに対する人質の意味もあった。
私は私で、少しでも時間がとれると、子竜たちに会いに行っていた。
聖銀竜の子も、黒鋼竜の子も、私が行くと大喜びで寄ってきてくれる。
「ぷあー、ぷああー」
ああ、可愛い…。
マ・コトに約束した通り、私は子竜たちを抱き締めて歌う。
「愛しい 可愛い 我が愛よ
愛に包まれ 優しい光にくるまれて
心地よく眠れ ぐっすり眠れ
可愛い わたしの 愛の光よ…」
子竜たちを抱いて、ゆっくりと体を揺らしながら繰り返し歌うと、子どもたちはやがてふわあ、と小さなあくびをして、私の腕の中や膝の上で眠ってしまうのだ。
今日もそうして寝かしつけていると、ナギがそっと私に語りかけてきた。
『…すまない、マ・リエ』
「え?どうしたの、ナギ?」
ナギは首を下げ、申し訳なさそうにしていた。
『最初に会ったときのことだ。我は、ほころびのことは我一人でやると言ったのに…結局、そなたの力を借りてしまうことになった。…すまぬ』
私の中で、ナギが頭を下げるのに、私は微笑んだ。(続く)
第242話までお読みいただき、ありがとうございます。
ナギはマ・リエに対し、申し訳なく思っていることがあったのですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。
次回より、体調の都合によりまして、しばらく毎週火曜日の更新となります。




