第241話。聖銀竜ナギの姉ナユに、語り掛けるマ・リエ。もしか したら…と考える。そして最後の特別な果実をマ・リエたちに渡 して枯れようとする大木に、ナギがとうとうその姿を現し…。
第241話です。
『大丈夫よ、ナユ。ナギには、私がついているわ。彼は…一人じゃないのよ』
不思議なほどに、ナユの先読みには私のことは出てこない。
きっと、私と融合するということは、大きなイレギュラーだったのだろう。
でも最後のウロコに入っていた先読みには、私のものらしき歌声が入っていたけれど…どうなのかしら。
もしかしたらナギは、私と融合しなくとも、たった一人でこの世界へ戻ってこられたのかもしれない。けれどそれにはきっともっと時間がかかって、傷も癒えぬまま虚無やほころびに立ち向かわなければならなかったかもしれない。
ナユが見たのは、その姿だったかもしれない。
だとしたら…私がいることで、ナギの力は大きく回復し、ナユが見たよりずっと前に、ほころびをどうにかすることができるかも。
そうよ、きっとそうだわ。
私が抱きしめた映像のナユは、涙を流しながら囁いていた。
『ナギ…ナギ、私の大切な弟。幸せになってね。私はもう…あなたのために、これ以上のことはしてあげられないけれど…せめて、幸せになって』
ええ、私はナギのことが大好きよ。
彼にはナユの子どもたちという家族もできたわ。
きっと、幸せになってくれるに違いない。
いつの間にか、私はその場に座り込んでしまっていたようだった。
しばらくそうしていたけれど、やがて私はゆっくりと立ち上がって、スカートの裾をパンパン、とはたいた。
「行かないと…。皆さん、心配してるわよね」
『そうだな』
ナギの返答を受けて、私は微笑んだ。
そして最後に、あの巨木の肌に手を当てる。
さようなら、と言おうとしたら、私より先にナギが話し始めた。
『姉上の痕跡を教えてくれてありがとう。姉上に会えたら、こう言ってくれ。…我は大丈夫だ。我にはマ・リエがいる。黒鋼竜たちやユニコーンたち、雷虎の娘も傍にいる。姉上のおかげで傷も癒えた。何に注意すべきかも、だいぶわかった。これからは、我とマ・リエの戦いだ。どうか…見ていて欲しい。姉上の想い、その努力を、決して無駄にはしない』
さわさわ…と、応えるように巨木の枝が揺れて、少なくなった葉っぱが葉擦れの音をたてた。
「ナギ」
ふと見ると、私の隣にナギが姿を現していた。
青銀色のウロコが、太陽の光を反射してきらめいている。
青に、銀に、太陽の当たり方で色味を変えるそのウロコは、幾重にも重なってナギの顔を、首を、肩を覆っていた。
鈍い青銀色を放つ二本の角は、鹿のように何本にも枝分かれしている。その後ろに、きらきらと輝きながら同じ色のたてがみが風にはためいている様は、精霊に愛された神竜が光をふりまいているようだった。
ナギの周囲に、青銀色の光の粒がまき散らされ、すぐ隣にいる私はまぶしさに目を細めた。
彼は私の腰の辺りから、半分実体化したような感じでその身を伸ばしていた。私に合わせてとても小さくなっているけれど、本当の彼はとても大きいのだろうから、この輝きもそれに比例してとても神々しく、艶やかな姿なのだろう。(続く)
第241話までお読みいただき、ありがとうございます。
ナギは美しいですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




