第240話。八千年の昔に生きていた、聖銀竜ナギの姉ナユ。彼女がたった一人の弟であるナギのために、穏やかな生活を送る中にも考えていたことと、行ったことは何なのか。
第240話です。
両手で胸に抱いた黄金の木の実に目を落としたとき、私はやっと、ナユの気持ちを理解した。
神金竜や黒鋼竜たちと共にほころびを修復したあと、ナユには愛する相手ができた。
いくつものタマゴも授かった。
最期の頃は、穏やかな生活も手に入った。
けれど彼女は考える。
いつでも忘れたことのない、愛しい愛しいたった一人の弟、ナギのことを。
遠い未来に戻ってくることは先読みで知ることができたけれど、彼女の先読みの中には、私のことは何ひとつなかった。
つまり、戻ってきたナギには何ひとつないと、彼女は考えたのだ。
唯一の家族である、ナユすらも。
ただ、虚無や邪気、ほころびとの戦いしかないのだと。
そして、ナユの先読みで読みきれなかった未来では、その戦いで生命を落とすことも十分にありうる。
たとえ生き延びても、力を使い切ってしまったり、体を悪くするかもしれない。
自分だけが幸せになり、ナギには何もない…と考えたナユは、そのことにどれだけ苦しみ、ナギのことを心配しただろう。
だから、大切な弟ナギのために、精一杯できる限りのことをしたのだ。
少しでもナギの助けになるように。
彼の力となれるように。
私の心の中に、ナユの映像が浮かんだ。
他の竜たちから力を借りて先読みをする、人型をしたナユ。
ナギの助けとなりそうなことを、ウロコに情報として入れるナユ。
そのウロコを、さまざまな真竜や神竜たちに託すナユ。
やがて神竜の数は減り、聖銀竜は彼女だけになる。
それでも竜玉を使って、あちらこちらに隠し部屋を作るナユ。
そして。
そして死が近くなったある時、まがまがしいヴィジョンを見て、必死にその情報をウロコに入れて隠し部屋に残すナユ。
伴侶はすでに亡く、力を貸してくれる聖銀竜も、神金竜もいない。
それで…最後のウロコに入っていた映像は、あんなに乱れていたのね。
彼女にはすでに、ウロコにきちんと情報を入れるだけの力は残っていなかったのだ。
『ごめ…んね、ナギ…おねえさんは…もう…これ以上、あなたを…たすけて、あげられそうに…ない』
ナユのバラ色の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
私は思わず、映像の中のナユを抱きしめていた。(続く)
第240話までお読みいただき、ありがとうございます。
ナユは弟ナギのことを、とても愛していたのですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




