第231話。聖銀竜ナギが示す先にあったのは、八千年の昔に亡くなったナギの姉ナユのウロコだった。そのウロコの中に託されている、ナユの遺した情報とは一体…。
第231話です。
『マ・リエ、そこの棚の上に、ウロコがある。姉上のものだと思う』
そう話すナギの声は、さっきより随分と力強くなっていた。
もしかして、ほとんど回復したんじゃないかと思えるほどに。
二ヵ月と経たずに大きなことを成し遂げようとしている今、そうだったらとても心強いのだけれど。
竜玉と同じように、明るい室内でも淡い光を放っている白銀色のウロコは、棚の上に二枚重なっていた。
すごい、二枚も。
この中には、一体どんな情報が入っているのだろう。
ワクワクしながら一枚を取ると、途端に私の中に怒涛のように映像が流れ込んできた。
それはナユが先読みしていた事柄の映像だった。きっと彼女はこうやって、未来を視ていたのだろう。
今までも映像が入っていることはあった。けれどこの映像はひどく乱れていて、ナユに映像を整える余裕がなかったのか、もう彼女にそれだけの力がないように思えた。
そして、ノイズだらけのその映像は。
「こ、これは…!」
囁くようなかすかな声が、聞こえてくる。
『触れては、ダメ』
えっ?何に?誰が?
『ナギ。この竜には、絶対に触れてはいけない。あなたはコレには勝てない。吸収され、殺されてしまうわ』
そこに、見えたのは。
形のはっきりしない巨大な漆黒の竜が、聖銀竜の姿のナギを呑み込もうとしているビジョンだった。
「えっ…!」
焦って思わずウロコを床に取り落としそうになって、私はあわててウロコを持ち直した。
『マ・リエ。大丈夫か』
「え、ええ、大丈夫、ごめんなさい。もっとちゃんと、視るわね」
『頼む』
ナギの声に背を押され、私はウロコの中の情報に集中した。
見えてきたのは、先程の大きな竜。
聞こえてきたのは、か細いナユの声。
『なにかが…ナギを狙っているわ』
えっ何かって、私たちがこれから行こうとしている、アトラス帝国内にある何か?
それとも違うところにいる何かなのかしら。
ナユの声はとても弱々しくて、彼女がもう死ぬ寸前なのではないかと思わせた。
その声を聞く私はつらくなって、意識をナギに向けた。彼もまた、目を閉じて辛そうな表情をしている。
ああ…やっぱり、このウロコの情報は、ナユがもう死んでしまう直前に入れられたものなんだわ。
八千年の昔、そうまでして、ナギに伝えたかったこと。
それは、ナギのピンチの話だったのね。
そのウロコの中には、そのナユの声とビジョンしか入っていなかった。ビジョンを入れると、容量が食われてしまうのだろうか。(続く)
第231話までお読みいただき、ありがとうございます。
もう一枚のウロコには、一体何の情報が入っているでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




