第229話。かつて黒鋼竜たちが住んでいたという場所に、黒鋼竜に連れられてやってくるマ・リエたち。そこはとても美しい場所だった。見つけた扉は封印されていて、マ・リエが歌を歌うと…?
第229話です。
「ありがとうございます、ゾロさん」
「いいえ。酔いませんでしたか?」
「はい、大丈夫です。ゆっくり下りてくださって、助かりました」
「我等のスピードには、同じ竜族くらいしかついてはこられません。風竜はもっと速いですが」
私はミンティ・ラナクリフ様のことを思い出して、そうですね、と頷いた。あのスピードはすごいと、知っているから。
山の下から風の音がする。
花の匂いが風にのって、ふわりと漂ってきた。
見上げると、青い空が近い。鳥のさえずりが幾重にも重なって、耳を楽しませた。
深い緑をたたえた大きな木がたくさん木陰を作っていて、その木肌にはリスがちょろちょろと走り回っていた。
影の濃い木の下生えには花が咲いていて、緑の絨毯にも色とりどりの花が色を添えている。
その花々にはこれまた色鮮やかな蝶々が飛び回っていて、森の中からは動物たちの気配が伝わってきた。
標高が高いせいか、太陽が直接当たっている場所でも、どちらかといえば涼しいくらいだ。
ここはとても過ごしやすく、動物も虫もたくさんいて、領地とするにはとても良い場所といえるだろう。
「こちらです、聖銀様」
周囲の風景に目を奪われていた私は、その声に我に返った。
ナユのウロコの捜索に来ていた黒鋼竜の一頭がやってきて、私たちに声をかけてくれたのだ。
「マ・リエ」
少し向こうで竜から下りたルイが走ってきて合流したので、私たちは黒鋼竜の案内に従って歩き始めた。
しばし行くと、朽ちた門が見えてきた。その中にはいくつもの建物があって、どれも朽ちかけている。建物は、木とわらでできているようだった。
ここが打ち捨てられたのがどれほど前だったのか、見るだけでわかる朽ち果てようだった。
「この下でございます」
とある建物跡の中、木くずと雑草に覆われた地面を指さされて、私はそこを覗き込んだ。
「…扉がありますね」
「はい。そこに封印が施されていて、我等には開くことができないのです」
木くずを払いのけてみると、そこには銀色の扉があった。
長い年月にも朽ちることなく、まるでミスリルででもできているかのように、銀色の輝きを発している。
「神気がもれてきているわ」
手のひらをそっと扉に押し当てると、その言葉が胸の中に響いてきた。
『聖銀の者よ、その存在を示せ』
わかったわ。
私は息を吸い込み、歌い始めた。
「遠き 遠き彼方に施されし封印よ
我の言葉を聞け
我はマ・リエ・ナギ
聖銀竜ナユの弟、ナギと共に在る者である
我の中の聖銀竜の力を示そう
それを受け取ったなら この扉 我の前に開かん…」
私の中のナギが、その聖銀竜の力を扉に注ぎ込むのがわかった。
すると扉は銀色に輝き出し、真ん中に筋が入ったかと思うと、キイイ…と誰も触っていないのに、観音開きに真ん中の筋から左右へと、床から持ち上がったではないか。(続く)
第229話までお読みいただき、ありがとうございます。
扉の奥には何があるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




