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第199話。びいびい鳴く、産まれたばかりの聖銀竜の子マ・リンに、ミルクを与えてやる鞠絵。懸命にミルクを飲むマ・リンに鞠絵が望むことは。やがてわかったマ・リンのウロコの色とは…。

第199話です。

「ぴい、ぴい、ぴい!」

 さっきより確実に力強くなった鳴き声に我に返った私は、タニアが差し出してくれたタオルにマ・リンを包んで、丁寧に拭いてやった。それから布団の上に下ろして、小さなお尻に竜用にしっぽが出る様式になっているオムツをはかせる。

 その頃には、マ・リンの鳴き声は大きくなっていて、真竜の女性があわてて哺乳瓶を持ってきてくれた。

「聖銀様、これを」

「ありがとう、助かります」

 私はマ・リンを布団から抱き上げて左胸に抱え、人肌にあたためられた哺乳瓶を右手に持って、その乳首をマ・リンの口元に押し当てた。

 マ・リンはすぐに乳首に食いつくと、ちゅっ、ちゅっとすごい勢いでお乳を飲み始める。

「わあ、すごい!」

 キアが嬉しそうに笑いながら、そう声をあげた。

 このお乳は、竜の子にとって大切な栄養源のほかに、竜の初乳に近い成分を含んだ特別製のものだ。ほかの竜の子たちも、皆この初乳を飲んできた。

 私の親指と人差し指でつまめてしまいそうな小さな腕が、必死に哺乳瓶をつかもうとしている。懸命に哺乳瓶を両手で押す様子は、産まれたばかりの子猫や子犬が母親の乳を押しているさまに似ていた。

「ンッ、んく、んく、んく…」

「いい子ね、マ・リン。よく無事に産まれてきてくれたわ。この世界に…いらっしゃい」

 この子も大きくなったら、ほころびを封印するという、聖銀竜の義務に追われることになるだろう。けれどそれに誇りをもって生きられるよう、責任をもって私たちが育てなければならない。

 せめて小さなうちは、幸せに愛に包まれて育ってほしいと思う。

「あうー、あ、あー」

 私の腕の中で一生懸命にお乳を飲む兄弟に、マ・コトが小さな手を伸ばす。お乳がうらやましいのか、それとも私に抱かれていることか、はたまた兄弟に触れたいのか。

「マ・コト、マ・リンは産まれてきたばかりでまだ柔らかいの。もう少ししたら、一緒に寝んねもできますからね」

 私はマ・コトにそう語りかけて、でもマ・リンの顔が見えるように体を動かした。お乳を飲むマ・リンを見たマ・コトは大人しくなり、ぷー、と小さな鼻声を出して嬉しげだった。

 それはおばば様に抱かれたマ・ナミも、メイリーに抱かれたマ・モルも同じだった。

 やっぱり、この子たちは分かり合っているんだわ。

 兄弟そろって、すこやかに育ってね。


 それからしばらくして、マ・リンのウロコが安定し、その色がわかった。

 ウロコの色は研ぎ澄まされた刃のような鈍い銀色だった。

 真紅の瞳も合わせてきっと、姿も知らない父親に似ているのだろうと、私は嬉しくなった。(続く)

第199話までお読みいただき、ありがとうございます。

今はすこやかに育ってほしいですね。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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