第198話。聖銀竜ナユの子の中では最後のタマゴ、マ・リンがついに誕生し、ぴゃーぴゃーぷあぷあ鳴く子をあやして産湯を使うマ・リエ。兄にあたるマ・コトがマ・リンに…。
第198話です。
私はマ・コトもマ・モルもマ・ナミも、孵化の時には立ち会っている。聖銀竜の四つのタマゴのうち、最後の一つであるマ・リンの孵化にも立ち会えることが、とても嬉しい。
さあ、出ていらっしゃい、マ・リン。
あなたの兄弟たちが…そしてみんなが、あなたの誕生を待ち望み祝福しているわ。
白銀色をしたタマゴの、上に近い部分に中から突いたような割れ目があり、そこから放射線状にヒビが入っていた。パキパキ、と音をたてて中心の割れ目が盛り上がってきて、やがて濡れて黒っぽい頭がカラから覗く。
「マ・リン!もう少し、もう少しよ、がんばって!」
私は思わず頭の周りのカラを手でむいてやりたくなるのを必死にこらえて、マ・リンに声をかけ続けた。
この瞬間は、何度体験しても慣れない。
「ぴゃー、ぴやー!」
腕の中のマ・コトが小さな腕を伸ばして、マ・リンのタマゴに触れようとしている。
マ・コトは兄弟が産まれ出るところを見るのは初めてだ。
わかるんだわ、こんなに小さくても、やっぱり竜の子は違うのね。
「マ・コト、まだ触っちゃダメなのよ。ほら、大人しくして」
「ぴー、ぴうー、ぴー!」
マ・リンはごそごそとうごめきながら、確実にタマゴのカラを割って外に這い出してきた。その体は黒く濡れていて、真竜の女性たちが急いであたたかい産湯を溜めた桶を持ってきてくれた。
「ぷあ、ぷあ、ぷあ」
可愛らしい声を張り上げる、産まれたばかりの子竜に、私たちは狂気乱舞する。
「マ・リン、よくやったわ!よく産まれてきてくれたわね、ありがとう!」
「聖銀様、こちらを」
「マ・コト様は私がお預かりいたします」
真竜の女性たちが次々に声をかけてくれて、私は微笑んで頷き、マ・コトを横の女性の胸に預けた。
「ぴー、ぷうー!」
「ごめんねマ・コト、マ・リンを綺麗にしてあげなくちゃ。あなたもしてもらったことなのよ、ね?」
白銀色の、まだやわらかい小さなウロコが輝く頭をそっと撫でながらそう言い聞かせると、マ・コトはナユにそっくりだというバラ色の瞳をきらきらと輝かせて私を見上げ、きゅう~…と小さな声を上げたきり、大人しくなった。
すごいわ、こんな小さな子でも、話せばわかるなんて。
私はマ・コトを女性に任せて振り返り、タマゴから這い出てきたマ・リンをそっと抱き上げた。
まだ彼か彼女かわからないけど…つける名前からすると彼女であってほしいけど…マ・リンはウロコで覆われた竜の子とは思えないほど生温かくて柔らかく、そして小さかった。
数日もすれば、このウロコもだんだん硬くなってくるけれど、今はまだふにゃふにゃだ。
「ぴいぃ…」
頼りなげでありながら、一生懸命に鳴く、産まれたばかりの竜の子を、私は優しく抱き上げて桶の中のお湯につけた。
「ぴ、ぴ、ぴ」
マ・リンは気持ちよさそうに口を開けて、小さく鳴いた。
「はいはい、きれいにしましょうね」
お湯をかけてあげながら、優しく手のひらで撫でて洗ってゆく。 隣から手を伸ばして、タニアとキアも手伝ってくれた。
マ・リンはぴゅうー、ぴゅうとひっきりなしに鳴きながら、私に向かって頭を上げた。その瞳は綺麗な真紅色をしていて、もうしばらくしたら体の色もはっきりするだろう。
楽しみね、ナユ。そしてナギもね。
私の中で、ナギがそうだな、と答えた気がした。
とても、嬉しそうに。(続く)
第198話までお読みいただき、ありがとうございます。
ついにナユの子がすべてふ化しましたね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




