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第192話。手すりから下を見下ろしたルイたちが見た、そこにあったものとは。そしてその中に沈められている、あるものとは何であったのか。

第192話です。

「ダグ?一体どうし…」

 同じように手すりにつかまり、空間の下を覗き込んだルイが声を失う。

 後ろのラバンが声を上げた。

「お二人とも、どうされたのですか?」

 黙ったままダグが体をずらし、ラバンに場所を譲った。不思議そうな顔をしたままルイの視線の先を追ったラバンが、ひゅっ、と息をのむ。

「こ…この下に渦巻いているのは…邪気ではありませんか…!」

 後ろに下がったヴィレドが、冷静に答えた。

「そうだ」

「こんな濃い邪気が、城の地下に…!?一体どこから湧いてきたんだ…!」

「それはわからない。数代前の皇帝陛下がお気づきになったとき、すでにここには邪気溜まりがあったそうだ。城の上にあるほころびからあふれ出てきたものか、それとも…」

 その言葉に、三人が一斉にヴィレドを振り返った。

「城の上にある、ほころび…!?」

「そうだ。はるか昔からある。しかししっかりと監視されてきていて、邪気があふれ出ているという報告は、少なくとも私は聞いていない。だからこの邪気がどこからきているものなのか、わからないのだ」

 三人は顔を見合わせたが、やがてラバンが再び声を上げた。

「それに…それに、邪気の中にいるのは…!」

 彼らの眼下、ずっと下には真っ黒な邪気がたっぷりと溜まり、どろりと渦巻いていた。それだけでも生き物にとっては恐るべき光景であったが、その邪気の中、まるで沈められているかのように、うごめくものがあったのだ。

「あれは…竜じゃないか…!」

 ルイが呻く。

 邪気の中沈められていたのは、一頭の竜だった。

 まださほど大きくない。ということは、子どもの竜ということだ。

 大人の竜も、子どもの竜も見たことのあるルイが、歯を食いしばるようにして呟いた。

「炎竜に似てる…あれはきっと、炎竜の子どもだ…かつて盗まれたというタマゴなんじゃ、ないのか…?」

 邪気にまみれて、その姿は真っ黒に変色してしまっているけれど。

 ルイの言葉に、ヴィレドが頷く。

「そうだ。百年の昔、炎竜のもとから盗み出して、邪気の中に置いて育てられている竜だ…と聞いている」

「そ…そんな…いくら竜とはいえ、こんな邪気の中では…死んでしまう…!」

「だから、苦しくてああしてもがいているのだ。動きを封じるため、何重にも隷属紋を打った上で四肢を鎖で縛ってあり、悲鳴や泣き声を上げないように、食事のとき以外は口輪をはめられている。どうしても弱ってきたときは、隣にある部屋に出して邪気から隔離し、元気になったらまた邪気に沈めているのだ」

 ルイの草原のような瞳から、ほろほろと透明な雫があふれ出て、白い頬を伝っていった。

「どうして…どうしてこんなひどいことができるんだ…どうして…」

 それまで沈黙を守っていたダグも、その後を続ける。

「まだ子どもじゃないか…泣き声も上げられず、ただずっと苦しみ続けているなんて…」

「食事を拒むので、流動食を無理やり喉に流し込んでいるのだ。四肢が鎖で壊死してしまうので、定期的に縛る場所を変えている」

「どうして…っ!そんなことを…!するんだ…!」

 片手で握った手すりを、もう片手でガン!と殴ったルイを、背後のヴィレドがたしなめた。

「お静かに…周囲には見張りがいる。音が聞こえてしまったら駆けつけてくるだろう」(続く)

第192話までお読みいただき、ありがとうございます。

邪気の中にいたのはなんと…。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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