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第19話。ユニコーンの村で、鞠絵が話したとあることが、彼女が聖銀竜との混じりものだと村人たちに確信させることとなる。そしてルイとのひと時。

第19話です。

 さて、ユニコーンの村に戻った私たちはというと。

 予定していたよりずっと遅かった到着に皆が心配していたけれど、ビリーたちは訳は後で話すから、まずは荷車に乗せてきた荷物の分配を先にすると言って皆を落ち着かせた。

 それが済むとビリーたちは村長の元へ、私は自分の家へと戻った。

 ふう…疲れた。もう夜だ。

 今夜は夕飯を食べる気にもならないくらい疲れているけど、パンくらいは食べて寝ようかな。

 なんだか明日くらいには、村長から呼びだしがありそうな気がするしなあ…。

 そう思ってパンをかじっていた私の元へ、ルイがやって来た。

「マ・リエ。集会所に来てくれ」

「えっ、今から?」

「…すまないが、そうだ。村長が村人たちを集めたから…マ・リエに来て欲しいと」

「えーと、それはつまり」

「今日のことについて、皆の前で説明するってことだ。…疲れているところ、すまないんだが…」

 眉をハの字にして心底申し訳なさそうなルイだって、相当まいっているでしょうに。

 私は思っていたより早かったけど、あーやっぱりこの時は来たんだなあ、もしかしたらこの村にもういられなくなるかも…と暗くなりながら、ルイの後についていった。

 集会所には既に村の主な人たちが集まっていて、私は村長に手招きされて壇上に上がった。

「マ・リエ。今日、何があったかは既にビリーたちが我々に説明してくれた」

「あー…そ、そうでしたか…」

 私は苦笑して、ひな壇のすぐ下にいるルイと目を見交わした。彼はやっぱり私と同じような表情をしていたが、私と目が合うと無理に唇の端を引き上げて笑ってくれた。

「マ・リエ、まずは彼らをお救いくださり、ありがとうございます。村長として私から、同じ種族の者として皆からも、御礼を言わせて欲しい」

 すると村人たちが一斉に頭を下げたので、私は驚いて両手を打ち振った。

「や、やめてください、あれはほんとにたまたまというか…私の力じゃないというか」

「ビリーたちは確かに見たと言うが、どうかあなた自身にも確認させて欲しい。あなたは本当に聖銀様なのか…あなたの中には、聖銀竜様が宿っているのか?」

 あ、これはもう、全部説明するしかなさそうだ。

 私は自分が異世界からやって来たこと、死に瀕したその際に聖銀竜が語りかけてきて私と融合したことを正直に話した。歌を歌うことで癒しの力を発揮するのはそのためだと。

「なるほど、しかし、聖銀様に癒しの力があるとは聞いたことがないのです」

 えっ?

「しかも、混じりものであられたのは神金竜様。ほころびを閉じるため最も強い力を持つゆえに、強きヒトの魂の力を必要としたのです。だが聖銀竜様には混じりものはいなかったはず」

 そうは言われましても。

「でもナギと私が融合したのは事実なんです。そうでなければ、今頃私は元の世界で死んでいるはずで」

「ちょ、ちょっとお待ちください、今なんと!?」

「ですから死んでいるはずで」

「そうではなく…誰と融合されたと仰いました!?」

「ナギです。聖銀竜のナギ」

「なんと…!」

 村長の黒い瞳が大きく見開かれた。彼は難しい顔をして自らの額に突き出た小さな角をしきりに撫で、それから顔を上げて私を真向からじっと見た。

 え、なに、ナギがどうかしたの?

「マ・リエ様。あなたは正真正銘、聖銀竜様との混じりものだ。間違いない」

 さっきまでの疑いの目はどこへ。村長はキリッとした顔で私を見つめてひとつきちんと礼をした。

 村人たちもざわついている。

「ナギ様のお名前は記録に残っています。創世の時に一頭だけ行方不明になられた聖銀、その名をナギ…と」

 創世の時。それが、私もシルに聞かされた伝承にあった一万年前ってこと?

 やっぱりナギは、一万年の時を超えて私のところに来たんだ。

「それで納得がいきました。ナギ様は時を超え、ご自分と波長の合う人間を探されたのですね。それがマ・リエ様…よく考えてみれば、その青みがかった銀色の髪、薄桃色の瞳、赤紫色の瞳孔は聖銀様と同じ色味。気づかなかった我らをどうか、お許しください」

 村人たちと共に村長が頭を下げるのに、私はあわてた。

「ちょ、ちょっと待ってください、私は確かにナギと融合していますけど…ナギは眠っていて、私が出せる力なんてちょっと歌って誰かを治す程度です。だからどうか、今までと同じように接していただけたら有難いです。私、まだこの村にいてもいいですか?」

 ここを追い出されたら、私には行く場所がない。すがるような思いでそう聞いてみると、村長は勿論!と即答してくれたので、とりあえず私は胸を撫で下ろした。いや、ほんとに心配だったので。

「勿論です、我らは元々聖銀様にお仕えしていた種族なのですから、マ・リエ様にお仕えするのは当然のことです」

 い、いや、だからそうじゃなくて。

「私に対する態度も、前のようにしていただけると嬉しいんですけど」

「し…しかし…それは難しく…」

「急にかしこまられても、私も困ります。今まで通り鞠絵で…あ、発音できなければマ・リエで。敬語もなしで。あと、私が聖銀との混じりものであることは村の人以外には秘密でお願いしたいです。まだナギは眠っていて、聖銀としては不完全ですし…私も不安なんです。お願いします。そうでなければ、私はここに居づらいです…」

 悲し気にローズクォーツ色の瞳を青銀色の睫毛に伏せてみせると、村長はうーうー…としばし唸ったり、村人たちをぐるりと見回したりしていたが、やがて私を振り返ってひとつ、頷いてくれた。

「わかりました…いや、わかった。あなたがそう、望まれるのであればその通りにいたしま…いたそう。それで、あなたがこの村にいてくれるのであれば」

「勿論。こちらこそ、それでよろしくお願いします」

 村長と村人たちに、壇上から深々とお辞儀をすると、パチパチ…とあちこちから拍手の音が上がり、それはやがて集会所を埋め尽くす大きな拍手となった。

 良かった、受け入れてもらえた。

 お辞儀をしたまま、私は涙が出そうになってぎゅっと目を瞑った。

「しかし不思議なのは、あなたの癒しの力だ。先程も申し上げ…ごほん、言った通り、聖銀様には癒しの力はないはず。それは、聖銀様と融合されたあなたに生まれた、あなた自身の御力だと、私は思う」

「私自身の…力?」

 私は顔を上げ、村長を…拍手し続ける村人たちを見回した。

 そんな、まさか。

 私自身で、皆を治してあげられていた?

 じわじわと、喜びが胸の中に満ちてくる。それは全身を温かく巡って、私は思わず両手を胸の前でぎゅっと組んだ。

 体がぽかぽかする。何かが私の中からあふれ出て、ゆらゆらと煙のように立ち昇るのがわかる。

「おお…」

 ユニコーンたちが拍手をやめて、感嘆の声を上げた。私の中から揺らめき立った、青銀色の中に桜色の混じったオーラを見たのだろう。

「これこそ確かに、聖銀様のオーラ。我ら一同、しかと見届けましたぞ」

 村長が力強くそう宣言してくれて、また大きな拍手がわき起こったのだった。




「…ふう。疲れた」

 もう夜も更けてきてしまった。家までルイに送ってもらいながら、私はぐったりとため息をついた。

 ほんと、皆に受け入れてもらえて良かった。それに私は元々特別でも何でもない普通の人間なんだから、突然崇めたてられるような存在に持ち上げられるのはいやだ。私は皆と仲良くしたいし、対等でいたい。

「そうだろうな。村人たちの態度はしばらくかしこまっているかもしれないが、勘弁してやってくれ。オレからも、改めて礼を言わせてくれマ・リエ」

 今、最後に様ってつけそうになったでしょう。あわてて口をつぐんだルイが下唇を噛んだのを見た私は、思わずぷっと噴き出した。

 くすくす笑い続ける私を困ったように見たルイが、そうだ、と話を変えようとする。

「あな…いやお前、隣の空き家じゃなくてオレの家に来てもいいぞ」

「えっ?」

 だってあなたの家で空いてるのは、お母さんの部屋でしょう。

 大切な、部屋でしょう。

「…母さんの部屋はそのままになってる。掃除もしてるから綺麗だ。そのまま住める」

「ルイ」

「そ、それに…マ・リエの作る食事、時々差し入れてもらってたが…どれも美味いし…うちでいつも作ってくれたら、父さんも喜ぶかなって…」

 ぎこちなく誘うルイの目元はピンクに染まっていて、私は思わず微笑んでいた。

 彼の態度はまるで、大切な何かを差し出すかのように見えた。

 だから余計に、この申し出は受け取れないな、と私は思った。

「ありがとう、ルイ。でもお客さんが来る時もあるし、あの家も掃除してもらって綺麗になってることだし、慣れてきたところなの。だから大丈夫よ」

「で、でも…女一人では特に夜は危ないし…」

「今晩の皆の様子を見るに、そんなことはないんじゃない?少なくともこの村の人たちは」

 それに、と私は胸を張った。

「悪いヤツが来ても、今度は皆で守ってくれるんでしょう?ルイ、あなたも」

「そ、そりゃ…隣だからすぐに駆けつけるけど」

「ならそれで大丈夫。私、大きな声で叫ぶから。声には自信があるの」

「そうだろうな…」

 今度はルイが溜め息をつく番だった。彼は私の家の前で、灯りを私に渡してくれた。

 村のあちこちには魔法石を使った街灯のような灯りが灯っているが薄暗い。

「すぐ隣だから大丈夫だ。…おやすみ、マ・リエ。また明日」

「ええ、おやすみなさい、ルイ。あなたも疲れたでしょう、ゆっくり休んでね」

 その晩私が泥のように眠ったのは、言うまでもない。

 夢の中で、青銀色の竜がローズクォーツ色の瞳を閉じて、すうすうと眠りについているのを見た気がした。

 ありがとう、ナギ。

 あなたの力のおかげで、あなたが私の中にいてくれたおかげで、皆を守ることができたよ。

 やっぱり私から見ると小さく見える聖銀竜は、尻尾の上に頭を乗せて丸くなって眠っていた。(続く)

第19話までお読みいただき、ありがとうございます。

とうとう聖銀竜との混じりものだと、ユニコーンたち全員にばれてしまいましたが、果たしてそれだけですむのでしょうか…?

次のお話も読んでいただけたら嬉しいです。

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