第184話。冒険者たちが見た、小さな真っ黒い竜がつぶやいていたという言葉を聞いたカルロスは…。また、その竜が邪気をまき散らすほころびを閉じた、その方法とは。
第184話です。
「それで、さっきの黒い小さな竜の話なんだが」
話を元に戻すと、リーンはエールをごくごくと喉に通してからぷはー、と息を吐いてグラスを置いた。
「そうなのよ。私たちはウルフのさらに後ろにいたから、邪気にあてられて気絶しちゃって。でも気を失う直前に、ほころびに向かって飛ぶ小さな真っ黒な竜を見たの」
「六枚羽だったろ?」
ウルフの問いに、リーンは頷く。
「ええ。そう見えたわ」
「そうか。確かに竜だったのか?小さかったんだろう?」
カルロスの問いに、三人は一様に頷いた。
「そうよ。まるで小鳥みたいだった。でも確かに竜の姿だったし、その翼も竜のものだったわ。…六枚だったけれど」
リックがちいさな声で、ぼそりと口にした言葉に、カルロスはギョッとした。
「聖銀さま」
「なんだって?」
問い返した声が思わず大きくなってしまったことを後悔しながら伺うと、リックは下を向いたまま相変わらず小さな声でぼそぼそとしゃべった。
「聖銀様、聖銀様…って、そう言ってた」
「え、その竜が?私は聞こえなかったわ。何か言ってるなとは思ったけど…聞き取れなかった。聖銀様って言ってたのね。でもなんで?」
「…わからない」
内心ひやひやしながら、カルロスは冒険者のほうに向かって聞いてみる。
「そ、そうなのか…ウルフは聞いたのか?」
「いや、風の音がすごくて…オレは聞いてない」
「そ、そうか」
胸を撫で下ろしながら、カルロスは頷いた。
「えと、とにかく、その後は私たちも見ていないからわからないのだけれど、気づいたらほころびは確かに閉じられていたわ。真っ白い糸みたいな魔力で」
「白?」
カルロスは再び首を傾げた。
「白い糸みたいな魔力だなんて、聞いたことがないな。聖銀様がほころびを閉じる糸は銀色なんだろう?」
「それなんだよ。オレたちも白い糸なんて聞いたこともないが、確かに白い糸だったんだよ。きちんと、きつく閉じられてた。しかも、あとにはほころびの周囲にすら、邪気が残っていなかったんだ」
「なんと、そうなのか?」
それからしばらく話してみたが、ほころびに向かって行き、邪気を吸い込んだという小さな黒い竜のことは、それ以上聞き出せそうになかった。カルロスはエールを掲げて、別の話題に移った。(続く)
第184話までお読みいただき、ありがとうございます。
小さな竜は聖銀さま、と呟いていたのですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




