第182話。開きかけたほころびの目が発する邪気に追われる冒険者が、振り返って見たものとは…。カルロスが酒場でその話を聞いているとき、一緒にいた二人はリーンとリックと名乗り…。
第182話です。
商人についてきた冒険者は、ごうごうと音をたてて風が渦巻き、細く開きかけたほころびの目に吸い込まれていく中を、必死に商人の馬車に向かって走った。
背後から邪気が迫ってくる。
開きかけたほころびの目が、今にもカッと見開きそうで、冒険者は恐怖にかられてほころびを振り返った。
その、とき。
冒険者の目に、小さなものが風をものともせずにほころびに向かって飛ぶのが映った。
「なんだ…あれ?」
それはまるで、まっ黒な小さな鳥のように見えた。
しかしその翼は一対の二枚ではなく、目をこらすと六枚あるように見えた。
「六枚羽の…鳥?」
その姿は漆黒で、光まで吸い込むような闇の色をしていた。一片の艶やかさもなく、ただ黒い。
よくよく見れば、尻尾は長く一本で、六枚の翼は鳥のような形状ではなかった。
「あれは…竜なのか?でもあんな…亜竜の子より小さいのは見たことがない」
「おい!置いていくぞ、早く馬車まで来い!」
商人たちが叫んでいる。しかし冒険者は立ち止まり、ほころびに向かって飛んでいく、小鳥くらいの六枚羽の漆黒の竜の後ろ姿を見つめた。
その竜はほころびの前まで行くと、小さな両手を広げ、まるで人間たちを守る盾のように、六枚の翼を広げた…。
「え?それでどうなったんだ?」
「おれがここにいるんだから、助かったに決まっているだろ」
エダルの街の酒場で、カルロスは顔見知りの冒険者から話を聞いていた。
対価はエール一杯。
「いや、そうじゃなくて、その竜が何をどうしたから、お前が助かったのかって聞いてるんだが」
カルロスの問いに、冒険者は首を傾げた。
「それが、よくわからないんだ。そのちっちゃな竜が六枚の翼を広げたと思ったら、邪気がそこに吸い込まれていってさあ。そこまでは見たんだけど、邪気にあてられて気絶しちまったもんだから、気づいたらほころびが閉じてて村人たちも戻ってきてたんだ」
「そうそう、私もその小さな竜を見たんだけど」
話に入ってきたのは、冒険者とカルロスと同じテーブルにいた男女だった。
彼らは冒険者が護衛していた商隊にいた。そして三人でエダルの街にやってきて、カルロスとはたまたまこの酒場で顔を合わせたのだ。
「あ、ごめんなさい、まだ名乗ってなかったわね。私はリーン、こっちは弟のリック。弟はちょっと口ベタだから、気にしないで」
するとカルロスの知り合いの冒険者はぷっ、と噴き出して、カルロスの肩を叩いた。
「いやいや、お前らの本当の名前を教えてやれよ」
「ちょっと、やめてよウルフ!」
ウルフ、と愛称を呼ばれても、冒険者は話をやめなかった。(続く)
第182話までお読みいただき、ありがとうございます。
彼らの本当の名前とは、その由来とは何でしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




