第178話。神より与えられし特殊能力『ギフト』によって、アトラス帝国第三皇子ガイウスの危機を回避する、元大将軍ヴィレド。襲ってきたのはなんと…。
第178話です。
そこは、草原と森林が入り混じった土地であった。
ふと、嫌な気配を感じたヴィレドは、己が前方で馬を進めていたガイウスの前に回り込んで、馬を止めさせた。
「ヴィレド?」
不審そうなガイウスの前方、森の木の影から、馬に乗った数人の男たちが現れる。ヴィレドはひどくなる嫌な予感に、咄嗟にガイウスに手を伸ばした。
「なんだ、あ奴らは?」
ヴィレドの視線をたどってどう見てもまともな素性ではなさそうな男たちを見たガイウスは、剣の柄に手をかける。ヴィレドはそんな彼の襟を掴み、思い切り引き倒した。
その弾みで、二人は馬から転げ落ちる。
「うっ…!」
草の上、倒れ込んだガイウスが唸り声を上げた。
ガイウスの背後にいた三人の護衛のうち一人が、剣の先をガイウスの血に染めて舌打ちをする。
「チッ、仕損じたか」
ヴィレドと共に落馬したガイウスのわき腹から、血があふれ出ていた。
ヴィレドがギフトによって得た予感に従って、ガイウスを引き落とすのが少しでも遅れていたならば、護衛の剣はガイウスを貫いていたことだろう。
護衛であったはずの三人が剣をふりかぶって、ガイウスとヴィレドに迫る。ヴィレドが咄嗟に投げた数本のナイフの一本が一人の喉を貫き、更に一本がもう一人の肩に突き刺さって動きを止めた。
前方からくる、馬に乗った男たちが走り寄ってくる前に、ヴィレドはわき腹を押さえて立ち上がったガイウスを引きずるようにして、迷うことなく森の中へと駆け込んだ。
彼らが少しでも動きにくくなると踏んだのだ。
それでも徒歩では、木の多い森の奥までは行くことができず、追手に囲まれそうになって、目についた大木を目指す。それを背後の守りとして、ヴィレドはガイウスを背中にかばった。
「ガイウス様、お気をしっかりもって下さい。必ず助かります」
ヴィレドのギフトがそう囁いてはいたが、この状況下では、彼自身それを信じることは難しかった。
そしてヴィレドの言葉に笑ったのは追手たちだった。
「今どうなってんのか、わかってねえんじゃねえのか、おっさん」
「頭おかしいんじゃねえの。お前らはオレらの手で、ここで死ぬんだよ!」
「これであの御方から、たんまり謝礼がもらえるってもんだ」
あの御方というのは、きっとガイウスの兄弟の誰かだろう。
ガイウスを死なせるな、と言ったディガリアス皇帝が、追手を差し向けるとは思えなかった。
このようなことがないよう内密かつ迅速に城を出てきたにも関わらずこの状況。きっと、自分たちは監視されていたのだろう。
だが、もう少し持ちこたえれば助かる…と、ヴィレドのギフトは囁いていた。
幾たびも戦で生き延びてきた彼の直感が。(続く)
第178話までお読みいただき、ありがとうございます。
ヴィレドのギフトは正しいでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




