表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/355

第176話。アトラス帝国の元大将軍ヴィレドが語る、アトラス帝国の皇帝ディガリアスについての恐るべき推測とは。ヴィレドの話にカルロスはあることに思い当たり…。

第176話です。

「ガイウス様のため、昔からの書物をずいぶん読みあさりました。すると不思議なことに、この数百年間…新しい皇帝が誕生した直後に、以前の皇帝は逝去されているのです」

「えっ?直後に、ですか?」

「そう、ただの一度の例外もなく」

 それはおかしい。一同は首をひねった。皇位の譲渡はそれまでの皇帝が弱り、その役割を果たせなくなった場合か、その皇帝が崩御したときに行われるもののはずだ。 それが、この数百年間ただの一度の例外もなく、皇位継承のすぐあとに、古い皇帝は亡くなっているなどと。

「様々な資料をあわせ読み、そこから私はこう推測しました。皇帝陛下は…次の皇位継承者に、乗り移っているのではないか…と」

「えっ!?」

 ヴィレドは難しい顔で、眠るガイウスと驚いた顔のカルロスを交互に見つめながら続けた。

「それならば、皇太子様や正妃様がいらっしゃらないことも納得がいきます。皇帝陛下は代々、何らかの魔術の行使によって、その時に今後の自分に最適と思われる人材を選出し、乗り移ってこられたのです」

 カルロスはあわてて両手を振った。

「し、しかし、戴冠式はきちんと執り行われてきたと聞きます。その時は皇帝陛下はご健在で、自ら王冠を次代の皇帝へと引き継ぐと」

「そうです。ですから乗り移りは、その後のどこかで、皇位継承者と前皇帝が二人きりになるタイミングで行われていると思われます。でなければ、継承式が行われて数週間もしないうちに、毎回前皇帝が逝去されている、などという異常な事態は考えられません」

 一同はかつての帝国大将軍が提唱する、突拍子もない皇位継承についての話についていきかねて、互いに顔を見合わせた。

 魂の乗り移りなど聞いたこともない。しかもそれが可能だったとして、そんなに何代にもわたって可能なのであろうか。

 カルロスは恐る恐る、ヴィレドに尋ねてみた。

「代々たくさんの皇子たちが産まれ、それぞれに殺し合いをすることを…皇帝陛下ご自身が許されている、と?それが、次の自分の乗り移る相手にふさわしいかどうか、試されている…と?」

「そうです」

「………」

 この代でも、皇子たちはもっとたくさんいた。互いに殺し合ったと明言はされていないが、おそらくは暗殺されたのだろうと思われる死や、無謀な戦地へ連れ出されて殺されたり、帝国の内外で盗賊に襲われて殺されたりして、今ではほとんど残っていない。

 それが、ディガリアス皇帝による選抜だったとしたら?

 カルロスは背筋が冷えるのを感じた。

 自分とガイウスは、こうして生き残っている。

 年齢的にもちょうどいい年頃ではないか。

 第一皇子は齢三十を過ぎ、第二皇子は二十代半ばだがひどいかんしゃく持ちで、時折気絶まですると聞く。

 第四皇子はやっと成人とされる十五歳になったばかりで、やや体が弱い。

 成人で若く健康なのは、自分たち二人だけだ。

 それに…そういえば、アトラス帝国は政治の方針がこの数百年間というもの、全く変わっていないのにカルロスは思い当たった。

 また、どんな人物も、皇帝になると別人のように…人が変わってしまうとの噂があった。

 帝位を受け継ぐ前の皇子が、自分が皇帝になったら今代のやり方を変える、と言っていたのに、皇帝になった途端に前帝と同じ方針を声高に推すようになったり。

 正妃を持ち、彼女ひとりだけでいいと言っていた皇子が、帝位についた途端にその正妃を側妃とし、何人もの愛妾を持つようになったり。

 血縁が多いほうが力になる、と兄弟を大切にしていた皇子が、帝位につくと仲のよかった兄弟や、意見をしてきた母や叔父なども殺したり、追放や失脚を次々させていったり。

 カルロスが知っているだけでも、そんな話はいくつも聞いた。

 そしてさらに、ヴィレドが読んだ資料の中には、『あれは私の子ではない、別人だ』という側妃の言葉がいくつも残っていた。

 帝国は何百年もの間、まるで同じ皇帝に支配されているように見えるのだ。(続く)

第176話までお読みいただき、ありがとうございます。

ヴィレドの推測は本当のことなのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ