第172話。自分も治癒魔法が使えれば良かったと言う魔法師ラバンにサラがかけた言葉とは。そして一行は帝国の南東にあるというエダルの街へと向かうのだが…。
第172話です。
すると御者台から顔を出したもう一人の魔法師、ラバンが残念そうに言う。
「私も回復魔法が使えれば良かったのですが…すみません…」
「そんなことないわ。ラバンは攻撃魔法が強いし、盾とかの補助魔法もできるって聞いたわよ。それはそれですごいことじゃない」
サラの言葉に、ラバンも少し笑顔になった。
「そう…でしょうか」
「そうよ。皆それぞれに、得意なことがあるんだから。私なんて風魔法しか使えないんだから、魔法師のお二人がどれだけすごいかよくわかっているわ」
魔法師たちは互いの顔を見合わせた。ずっと奴隷同然の扱いを受けてきた彼らにとって、人からほめられるということはなく、サラからの素直な賛辞は胸にしみる大きな喜びとなった。
そしてそれは、彼らの口からすんなりと、礼の言葉となって出てきた。
「「ありがとうございます」」
魔法師二人の声がかぶさり、サラはふふっ、と笑って肩をすくめた。
馬車の後部から覗き込んでいたヴィレドが、皆に向かって頭を下げる。
「皆さま、御礼申し上げます。助けて頂いた上、回復まで…今後とも、ガイウス様の治療をよろしくお願いいたします」
カルロスは彼に振り向いて微笑み、手を伸ばした。
「人助けができて良かったです。さあ、ヴィレド殿も乗ってください。街までお送りしましょう」
「なんと、私まで…よいのですか?」
「もちろんです。街ではシダーと一緒に、彼を看てやってください。とりあえずは東のエダルの街まで行って、宿をとりましょう。我等も今夜から、そこに拠点を作ることにします」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて…」
ヴィレドが乗り込むと、御者台のラバンが馬を東に向け、一行は帝国の南東にあるというエダルの街へと向かったのだった。
馬車の中で、サラは時折ガイウスに治癒魔法をかけるシダーに向かって、感心したように言った。
「さっきの詠唱を聞いていて思ったのだけれど、治癒魔法は全属性が必要なのね。すごいわ。私たちは風しか持っていないし…あら?でもラバンもシダーも、火魔法は使えないって…ほかにも、使えない魔法があるって言っていたわよね?」
首をひねるサラに、治癒魔法をかけ終わってガイウスの傷口から顔を上げたシダーが、微笑んで答える。
「はい、私もラバンも、火や雷は使えません。が、属性そのものは全属性を持っているのです」
「ええ?じゃあ何故、使えないの?」
サラの疑問ももっともだ。シダーは笑みを深くした。(続く)
第172話までお読みいただき、ありがとうございます。
シダーはサラの疑問にどう答えるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




