第171話。元アトラス帝国の皇族の一人であったカルロス・ロッドの生い立ちとは。ひどいケガをしたアトラス帝国の皇子ガイウスを癒すため、治癒魔法を使う魔法師シダーにサラが…。
第171話です。
ヴィレドは全員を見渡して、特にカルロスに向かって言った。
「よいのですか、我等を助けて…その、カルロス、様…」
ユニコーンたちとシダーはカルロスを見上げた。そういえば彼は、帝国の皇族の一人だったと少し前に聞いた。そのときは驚いたものだったが、彼の生い立ちを聞くと、ここにいるのも納得したものだった。
カルロスは皇帝の弟の一人息子であったが、母が愛人であったため疎まれ、しかも母の乳が出なかったために、当時母の侍女で子供を産んだばかりの雷虎の乳母がついた。だから混じりものの方たちには好意も恩義もあるということだった。
地竜の首都サンガルには、冒険者と偽り出入りしており、トリスラディには只人の帝国の情報を時折流していたのだそうだ。
「私は、水竜の砦に攻め入ったあなた方に対して、決していい感情は持っておりません。けれど今は二人きりで何か訳ありなご様子…そんな傷も負っているのですから、放っておけるわけがないでしょう。一緒に来てくださいますね?」
ヴィレドは目を潤ませて、カルロスに向かって頭を下げた。
「ありがとうございます。カルロス様、そして助けてくださった皆様、回復魔法をかけてくださった魔術師殿」
「私は魔法師のシダーです」
「シダー殿。おかげでガイウス様の命は救われた。心より、感謝申し上げます」
「いえ、この先も定期的に回復魔法をかけて、少しずつ癒していかないとなりません。私の力がもっと回復に特化していれば、一度で治すこともできたのでしょうが…」
しゅんとしてしまうシダーに対して、サラがフォローに入った。
「シダーは攻撃魔法だって使えるんだし、そっちはかなり強力なんだから、回復魔法が使えるってことだけでもすごいことよ。街についたらあなたは残って、この人が治るまでついていてやってくれる?」
「もちろんです。私にできることならば。しかし皆さんは大丈夫ですか?その分、人手が減ってしまいますが」
カルロスが、ヴィレドの治療に入るシダーに向かって頷いた。
「実際、我々も拠点が欲しかったところだし、シダーには街の宿で彼を看ていてやって欲しい。時々戻ってきて様子をみることにしよう」
「そうね。この人心配だし…でももう動かせそうかしら?」
「はい。ヴィレド殿はこれで大丈夫ですし、ガイウス様のほうもとりあえず傷は塞ぎました。内臓のほうの損傷はこれからゆっくり癒していきますが、傷自体は癒したので動かせます。馬車に乗せますか?」
するとダグがガイウスの足元に回って、指示を出した。
「そうしよう。ルイ、カルロス、上半身をそっと持ち上げて運んでくれ。足はオレが持つから大丈夫だ」
三人がかりでガイウスを馬車の中に運び込むと、サラが出した毛布の上に彼を寝かせた。すぐにシダーが彼の傍につく。
「シダー、疲れない?大丈夫?」
「私自身も回復させながら魔法をかけるので大丈夫です。この後は一時間おきくらいになりますし、明日くらいからは数時間おきに回復魔法をかける程度になりますから。一度にすぐ治せればいいのですが、私の力ではこんな深い傷はこれが精一杯です」
「それでも手術や薬の力を借りずに治せるだけ、シダーは凄いわよ」
サラがそうほめると、シダーは照れくさそうに頬を少し染めて笑った。
「こんな私でも、人のためになれるとは…嬉しいものですね」(続く)
第171話までお読みいただき、ありがとうございます。
ずっと治癒魔法をかけるシダーは大変ですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




