第158話。黒鋼竜のおばばエリアスは、自室にある小さな祭壇で大きな黒いウロコに向かい祈りを捧げる。初代エリアス・カルダットであるその黒鋼竜とは…。
第158話です。
レイアとカルロスがまた会えましたね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。
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マ・コトと鞠絵を静かに見守っていたエリアスおばばは、鞠絵が子守歌を歌い始めるとそっと立ち上がり、残った真竜の女性たちにあとを頼んで洞窟を出た。
自室に戻ると部屋の最奥の壁についているボタンを押す。
すると壁が横にスライドし、更にその奥に小さな部屋が現れた。
エリアスはロウソクに火を灯してその中に入り、奥まったところに火をうつす。
ぽう、と明かりに照らされて浮かび上がったのは、小さな祭壇だった。
中央には大きな漆黒のウロコが一枚飾られている。
エリアスは両手を組んで、そのウロコに祈りを捧げた。
「初代様」
黒いウロコがキラリ、と輝いて、彼女の呼びかけに応じたように見えた。
「とうとう、ナユ様のタマゴがお孵りになりました。ナユ様が亡くなってからずいぶんと経ってから盗まれてしまった、あのタマゴの魂が、双子の片割れに宿って産まれたのです」
キラキラ、とウロコがロウソクの炎を映してきらめく。
「初代様が生涯気にかけておられたお兄様は、許されてやっと開放されました。今ごろはそちらに行かれているのではないでしょうか。全ては我等が待ち続けていたナギ様の…マ・リエ・ナギ様のおかげです」
エリアスは顔を上げて、ウロコを見つめた。
「これであなた様の心残りも消えたでしょう。あなたの苦しみも悲しみも、これで消えたことでしょう。どうぞ、ゆっくりとお休みください。初代エリアス・カルダット様…いいえ、代々我等の長であったカルダットの息子、エレサーレ・カルダット様の代わりに我等の祖先を率いた、その妹君エレサーヌ・カルダット様」
エレサーヌの代より、予言に従って代々エリアスの名を継いできた彼女は、初代エリアス・カルダットのウロコに向かって深々と頭を下げた。
話は少し遡る。
マ・リエが浄化を行うことになる日の朝、黒鋼竜に乗って黒鋼竜の領地を出立したカルロスとルイ、ダグ、サラ、魔法師二人は、その日の夕刻に水竜の砦に到着した。
「こんなに早く到着するなど、思ってもみませんでした」
カルロス・ロッドが黒鋼竜の背から降りながら、感心してそう口にする。
「歩けば十日、馬でも三日はかかるというのに…半日で着いてしまうとは」
「神竜のスピードというものを、あなどっておりましたね」
魔法師のラバンとシダーもそう頷く。
あらかじめ魔法で連絡をとっておいた水竜の砦から、砦の守護竜であったエデルの妻ノエラの妹のレイアが出迎えてくれた。
「これはこれは皆様、その節は本当にお世話になりまして…」
今ではエデルに代わって、水竜の砦の新しい守護竜となっているレイアが深くお辞儀をする。
「頭を上げてください。あのとき只人たちを追い払ってくれたのはマ・リエ殿です。私どもは何もしておりません」
レイアは首を横に振り、カルロスに向かって両手を組んだ。(続く)
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