第154話。黒鋼竜のタマゴたちも孵りそうに震えている。それを確認する前にマ・コトのタマゴへ向かうおばばと鞠絵。マ・コトのタマゴはどうなっているのか…?
第154話です。
「ありがとうタニア。ここから先はゆっくり歩いていくから大丈夫よ。洞窟の中には竜に力を与える光が満ちているから、一人でも平気」
タニアは心配そうにしていたが、仕方なさそうに頷いてくれた。
「わかりました。お気をつけて、行ってらしてください。帰りにはまたお迎えにあがります」
「うん、お願いね」
最後の扉の向こうでタニアと別れ、私とおばば様は扉をくぐった。そこは天井にも壁にも床にも、金色の光の粒がちりばめられた黒い水晶のような突起物が生える洞窟。
黒鋼竜と真竜のあいだに産まれたタマゴの集められた洞窟の中には、世話係の者たちが常に何人かいるはずだったが、今はその先の洞窟に集まっているのか、誰もいない。
やわらかくタマゴを包み込む洞窟の光を浴びていると、私の体にも力が入り込んでくるのがわかった。
水晶の洞窟を抜けようとして、私はあることに気づいた。
「も…もしかして、ここにあるタマゴたちも孵ろうとしているのでは…?」
「なんですと?」
黒鋼竜になるか、真竜になるかわからないと言われているタマゴたちが、かすかに震えているように見えたのだ。
「おばば様、こちらへ!ヒビが大きくなっております!」
私たちが黒鋼竜のタマゴを確認しようとしたその時、奥の洞窟から走り出てきた女性に声をかけられて、私たちははっとして顔を見合わせた。
「…ヒビが入っているほうを優先すべきでございます。こちらのタマゴたちは、ほかの者たちに確認させますので、まずはマ・コト様のところへ」
「はいっ」
白銀色をした水晶でできた扉は、すでに開かれていた。
中へ入ると、六角錐をした白銀色の水晶が、きらめきながら光を放っていた。一度入ったことがあるとはいえ、この美しさは何度見ても驚く。何といっても、この部屋には水晶の輝き以外、何の光源もないのだ。それほどの輝きを放つ銀水晶の部屋の中、照らされた青銀色のタマゴが四つ、数人の真竜の女性に囲まれて鎮座していた。
「おばば様!こちらでございます」
「おお…おお!聖銀様、ヒビが…!」
青銀色のタマゴのうち一つに、大きなヒビが入っていた。それはピシ、ピシと小さな音をたてながら大きくなってゆく。
私たちはちょうどいい時に来たのだろう。見る間にタマゴをぐるりと囲むようにヒビが入った。しばらく見つめていると、帽子を脱ぐかのように上の部分がゆっくりと持ち上がり始めたではないか。
「おばば様、わ、私、どうしたら」
お尻が浮くような焦燥感に、私はおばば様に問うてみたが、目はタマゴから離れることはなく、時折静かに動くタマゴのフタの部分を凝視している。
「落ち着きなされ。大丈夫、皆こうやって産まれてくるのですよ」
これまでたくさんのタマゴの孵化に立ち会ってきたのだろうおばば様は、ゆったりと微笑んで私の背中をさすってなだめてくれた。
一体どんな子が産まれてくるのだろう。聖銀竜だから、やっぱり青銀色だろうか。タマゴの大きさからみて、子どもがタマゴより大きいわけはないから、このくらいだろうか…翼の大きさはどれくらいだろう。どんな目の色をしているのだろうか。
私は胸躍らせながら、ゆっくり動くタマゴを見つめた。
ああ…でも、最初に抱き締めてあげなくちゃ。約束だもの。
産まれてくるのが怖い、と泣いていたマ・コトを思い出して、私は気を引き締めた。(続く)
第154話までお読みいただき、ありがとうございます。
とうとうマ・コトのタマゴは孵るのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




