第153話。タニアから、聖銀竜マ・コトのタマゴにヒビが入ったと聞かされた鞠絵は、あわててマ・コトのもとへと向かおうとするが…。
第153話です。
タニアが持ってきたばかりの水は、冷たくて美味しかった。何杯も一息に飲み干した私は、ようやく人心地がついてため息をつく。
「大丈夫ですか?姫様?」
私の背中をあたたかい手で撫でてくれるタニアに、私は頷いてみせた。
「もう大丈夫。心配かけちゃったわね…ごめんなさい。ところで、外が騒がしいみたいだけど…どうしたの?」
するとタニアは私から水のコップを受け取りながら、驚くべきことを話してくれたのだ。
「先ほど、聖銀竜のタマゴにヒビが入ったと、領地内が大騒ぎなのです」
「えっ!」
うそ、こんな早くに!?
それを願って歌ったけれど、それにしても早すぎない!?
それに、気になるのは。
「ど、どのタマゴにヒビが?」
「マ・コト様のタマゴだと、伺っています」
マ・コト。
あんなに片割れに戻るのを怖がっていたのに、最後には聖銀竜としての責任を果たすべく還っていった、幼い子。
二人が一人となって、力を得て最も早く孵ろうとしているのだろうか。
「わっ私、行かなくちゃ」
彼らがこの世に生まれ出てくるときには、抱き締めてあげなくちゃ。
「それではお着替えをしなければですね。お目覚めになられたこと、おばば様にお知らせしてまいりますから、まだベッドでお待ちになっていてください」
そう言われて、私ははやる心を抑えて頷いた。
「わかったわ。でもマ・コトは…」
「大丈夫です。そうすぐには、タマゴは孵りませんから…間に合いますよ、ご安心ください」
「そ、そうなのね」
しかしその時、タニアが出ていくまでもなく、ドアがノックされておばば様が顔を出した。
「聖銀様!お目覚めになられましたか!」
「ええ、ついさっきですが。おばば様、マ・コトのタマゴにヒビが入ったそうですね」
「そうなのです!虎娘よ、お目覚めになられたらすぐに私に知らせるようにと、言っておいたではないか」
その呼称に、タニアは唇をとがらせた。
「虎娘はやめてください!今、向かおうと思っていたところですよ」
「おばば様、着替えたら私もすぐに向かいます!」
「ではここで待っておりまする」
「そんな、ではそこの椅子に座っていてください」
二日以上も眠っていた体は、疲れはとれていたがフラフラしていて、ちっとも言うことを聞いてくれなかった。タニアに手伝ってもらわなければ、一人ではとても着替えられなかったに違いない。
ようやく動きやすい服に着替えて、タニアに支えてもらいながらおばば様と共に洞窟に向かった。
あまりにゆっくりしか歩けないものだからお願いしてみたら、タニアは私を軽々とおぶってくれた。私は長いスカートをはいていたけれど、裾が広がるタイプのものだったので、おんぶをしてもらっても問題なかったが、おばば様の言葉が飛ぶ。
「虎娘、聖銀様を落とすでないぞ!たとえそなたが倒れて鼻先をすりむこうとも、聖銀様を落とすことまかりならん!」
「もう、そんなことわかってますよ!私の名前はタニアです、虎娘って言わないでくださいってば!」
そんな言い合いをしながら、おばば様の開錠の言葉でいくつもの光る鍵穴の扉をぬけていく。
最後の扉の前で、竜以外の立ち入りを禁じられているため、タニアは私を背中から下ろした。(続く)
第153話までお読みいただき、ありがとうございます。
マ・コトのタマゴがとうとう孵るのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




