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第15話。街での行商。鞠絵が計算ができたため行商がうまくいって皆は浮かれる。

第15話です。

「マ・リエ、こっちに来い」

「え?」

「アイツらは只人だ、近づくな」

 そっと指さされた人たちは、確かに他の混じりものらしき人たちとは異なる雰囲気を持っていた。何て言ったらいいんだろう…何かが、足りない…ような?

「気をつけろ、魔力が極端に少ないのが感じ取れたら只人だ。すぐに距離をとるんだぞ、マ・リエ」

「あ、は…はい」

 そんなに危険なのだろうか。違いを見極めようと覗き込む私を引き留めるルイに、ビリーが首を振った。

「まあ大丈夫だろう。この辺に来ている只人は、強欲ではあるだろうが害はないだろうから」

「だが奴らに近づかないにこしたことはない。特にマ・リエは我らの客人なんだし」

 ルイが私を客人として大切に思ってくれていることが伝わってきて、私は嬉しくて彼を見上げた。

「ありがとう、ルイ。心配してくれて。大丈夫、近づかないようにするわ」

 そう微笑むと、私を見下ろしたルイは少しばかり照れくさそうな表情になり、わかればいい…と私を離してくれた。

「そろそろ市場に着くぞ。早速行商を始めよう」

 今日はカイとダグが荷馬車を引いて、ヒト型になったビリーとシルとサラで行商を始めるようだ。ルイは街が初めてだから見学みたい。ビリーは年長だし、シルたちは女性の観点から見られるし、三人とも街での行商経験があるからみたいね。

 この世界での通貨は以前の世界のお金と比べると、十万円ほどに匹敵する大金貨を始めとして、一万円相当の金貨、千円相当の銀貨、五百円相当の半銀貨、百円相当の銅貨、五十円相当の半銅貨、十円相当の鉄貨、そして小鉄貨が一円相当…という感じで、何より十進法なのはとても助かった。

 それにしても…行商を始めてからとても、気になっているのだけど。

「これは銀貨六枚と銅貨三枚だな」

「そうか?銀貨七枚と銅貨四枚では…」

「違う違う、ちゃんと計算してるか?」

 なんだか…値切られているっていうか…雰囲気おかしくない?

 ちょっと二人とも、ちゃんと計算できてます?

「あのう。野菜とか、一つずつの値段って教えてもらえます?」

「ああ、いいよ。これはね…」

 野菜については、各々グラムごとの値段が決まっているようだった。こっちでの単位がグラムなのも有難いし、だったら話は早い。私はちゃっちゃと日本円式に頭の中で暗算して、メモしてきたこちらの金貨とかに換算して話した。

「これは銀貨五枚と半銀貨と銅貨三枚です。こっちのニンジンは銀貨四枚と銅貨二枚と半銅貨。キャベツは銀貨五枚と半銀貨と銅貨二枚」

「えっちょっと、ちょっと待っておくれよ、そんなにならないよ」

「でもここに書いてある野菜の種類とグラムごとの値段を、うちが持ってきた野菜のグラム数と掛け合わせればこうなりますよ」

「わっ分かった、もう一度ちゃんと計算するから…全く、綺麗なお姉ちゃんには敵わねえなあ」

 そして計算し直した結果、少なくとも野菜は、だけど、私の暗算した結果は間違っていなかった。

「すごいなマ・リエ、計算ができるのか!?」

 振り返ったビリーが黒い瞳を大きく見開いて私を凝視する。そんなこと、日本人なら誰だって…ってそうか、ここではもしかして、計算が簡単にできるのって商人くらいなのかもしれない。

 そういえばユニコーンの村では頂くばかりで買い物ってしたことないから、どんなふうに売ってるのか全然知らなかった。

「え、ええ、一応できますけど…」

 そう答えると、ビリーもシルも感心したようにほう、と息を吐いて、思わずといったふうに誉めてくれた。

「マ・リエは賢いんだな!」

 いえいえ、私は賢いわけではない、普通の日本人です。

 読み書きに関しては、さすがに日本語ではないので今ユニコーンの村で教わっているところだけれど。一から学ぶのはなかなか難しいかと思いきや、すらすらと私の中に入ってきて、今回もこうして簡単な言葉や数字なら読むことができた。これもナギのおかげなんだろうな。

 本当に助かる…と考えていたら、ビリーに同じことを言われて私はえ?と顔を上げた。

「助かった、私たちはこれでも村では計算ができるほうなのだが、こうして黒板で書いても間違えることもあってな…」

「道理で、今までなんだか随分安いと思っていたのよ」とシル。

「もしかして、今まで安く買い叩かれてしまっていたのかもしれない。マ・リエ、野菜は終わったが今度は衣類や装飾品があるから、よろしく頼むよ」

「えっ、はい、わかりました」

 私には目利きの能力はないけど、角のない私に示される金額はそれなりと思われるものだったので、他の皆に相談しながら売っていった。単価が決められているものは簡単だったし。

「ふう、助かったよ。マ・リエのおかげで、この規模の行商では今までで一番の売上だった。街に来た者には少しずつご褒美が与えられるから、お前も少しだがこれで何か好きなものを買うといい」

「私たちと一緒にお買い物しましょマ・リエ!あなたに似合う服かアクセサリーを選んであげる!」

 サラが自分の分のお金を握り締めて、嬉しそうに声をかけてくれたので、私はサラやシルと一緒に市場を回り、三人でああでもない、こうでもないと話し合いながら、彼女たちが少しばかりの服やショール、糸や小さな装飾品を選ぶのに付き合った。

 本来なら女性三人で街を回るのは物騒で危ないところだが、市場には警備隊が巡回しているため、細い道に入ったり市場から出ない限りは安全だということだった。

「あっそうだ、私植物油が欲しいんだった」

「だったら向こうに売ってるわよ。ココナッツオイルならそんなに高くないと思うんだけど」

 結局それを瓶に入れ、きっちりとフタをしたものを五本ほど買えたので満足だ。帰ったらルイに頼んで洞窟冷蔵庫に入れてきてもらおう。これでまた天ぷらが揚げられるから、差し入れもできるなあ。砂糖も買えたからドーナツも揚げられる。

「ふふふ」

「マ・リエ、楽しそうね」

「あ、あら、そう?」

「サラもマ・リエも、初めての街は楽しかったかしら?」

 シルにそう問われて、私は頷いた。

「はい。ちょっと序盤にトラブルはあったけれど…楽しかったです!私の編んだものも売れたし」

 そうなのだ。私が編んだ二着の編み物だが、袖なしのベストも五分袖のトップスも、衣料品店で両方売れたのだ!

 それだけでも嬉しかったのに、これは模様も変わっているねと、自分で考えていたよりも高く売れたので、私はほくほくだった。これで少しは皆に返すことができるもの。

「それは良かった。もう男性陣と合流しましょう。売ったお金で村の皆への買い出しもしなければだし」

「そうね」

 待ち合わせ場所にした市場の端に来てみると、空になった荷馬車を既にビリーとカイが引いて、ヒト型のダグとルイが待っていた。

「こら、遅いぞ!」

「ごめんなさい、つい楽しくて」

「出発が遅くなってしまうから、急いで買い物を済ませよう」

 今度は皆で、村人たちに頼まれたものをメモを見ながら買っていく。ビリーとシルはさすがに慣れていて、てきぱきと買い物を済ませていったし、サラもそれを手伝ったので、そう時間もかからずにまた荷馬車には行きとは違った荷物が積みこまれた。

「これで全部だな。それでは村へ向けて帰ろう。街の外に出たらオレたちもユニコーンの姿になる」

 特にルイは白毛で目立つから、街の外に出てしばらくしてからユニコーンになるみたい。

「オレがユニコーンになったら、鞍を乗せてまたオレに乗ればいい」

 そう言ってルイが鞍を渡してくれたので、私はお言葉に甘えることにした。

 荷車を引いていたダグとビリーが交代して、私はルイに跨って、街へやってきた時と同じ状態になって村へと出発。

 私が計算できたおかげで、今までよりずっと高値で取引ができた、皆にも還元してやれると上機嫌だった私たちは、だからつい気が緩んでいたのだ。(続く)

第15話までお読みいただき、ありがとうございます。

次回は街からの帰りに大変なことに巻き込まれます。それは…。

また読んでいただけましたら嬉しいです。

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