第148話。風竜の長ミンティ・ラナクリフの竜の姿が、どれほど美しいものなのかわかってもらおうとする鞠絵。ミンティは納得してくれるのか?
第148話です。
昇ってきた朝日に照らされて、動くたびに宝石のようなウロコが輝く。
「きれい…?私が?」
それは謙遜などではなく、本当に意外そうな声だったものだから、マ・リエは力強く頷いて拳を握った。
「そうよ。すごく、すっごくきれい。まるで翡翠でできた竜の芸術品みたいに…ううん、そんなものよりずっとずっと綺麗よ」
ミンティは不思議そうに聞き返す。
「ひ、すい…?ってなに?」
ああそうか、マ・リエの世界にあったあの宝石は、こちらの世界にはないか、別の名前であるかなのだ。
「翡翠っていうのはね。私のいた世界にあった宝石なの」
「そうか、聖銀ちゃん…マ・リエちゃんは、別の世界から来たのだものね?」
「ええ、そうよ。ナギと融合して、この世界にやってきたの」
「そうよね」
ドラゴン会議で既に知っていたミンティだったが、あらためて納得し頷いた。
今までいろいろと不思議に思っていたことが、ぴたりとはまった瞬間だった。
「私の世界では色々な宝石があったけれど、その中でも翡翠はとても美しくて、数も少なくて貴重な宝石なの。柔らかいから削って色んな加工ができるのだけど、それは花だったり、小鳥だったり、竜だったりするのよ。ミンティちゃんはその竜みたい」
貴重な宝石…と、ミンティが呟く。
「で、でも、羽根が四枚あるなんて気持ち悪いでしょ」
「えっ」
心底驚いて、マ・リエは目をむいた。竜の姿のミンティはどこも美しかったが、四枚羽根だなんてその美しさがさらに増しているところだと思っていたので。
「何を言うの、まるで翠色のシャボン玉みたいな綺麗な羽根が、四枚もあるだなんて。私はすごく素敵だと思う!羽根も含めて、あなたの竜の姿は最高に綺麗よ、ミンティちゃん」
「シャボン玉って、なに?」
ああ、それも知らないのか、とマ・リエは頷いた。
「石鹸水を細いストローで吹くとシャボンの膜ができて、その中に空気を吹き込むと丸く膨らむの。表面張力が…あ、それはどうでもいいわね。とにかく、空気を吹き込んでまるくできると、軽いから空気中を漂うのだけど、薄い膜が光を反射していろんな色に輝いて、とても綺麗なのよ。ミンティちゃんの羽根は、そのシャボン玉を最初から翠色の液で作ったみたい。翠色をベースにして、色んな濃淡があって…今は朝日の光を反射して、すごく素敵よ」
「すてき…?」
本当に?と、ミンティの瞳が問うている。
マ・リエは両手の拳を握りしめたまま、うっとりとした瞳で語った。
「そうよ。風竜の長の御姿は、神様が作った宝石の竜みたい。四枚の羽根も珍しくて私は好きよ。神々しくて、素晴らしいわ」
「………」
ミンティは翡翠の芸術品のような角の四本ついた頭を下げ、濡れた瞳を閉じてしばらくの間、動かなかった。
マ・リエが心配になってきた頃、彼女は頭を上げてマ・リエを見つめて、一言囁いた。
「ありがとう」
その声は涙に濡れているように聞こえて、マ・リエが何か言おうと口を開けたとき、ミンティはばさり、と翡翠のシャボン玉のような四枚羽根を広げた。(続く)
第148話までお読みいただき、ありがとうございます。
ミンティちゃんの竜の姿はとても美しかったのですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




