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143/356

第143話。抱き締めた鞠絵の腕の中で、聖銀竜の子マ・コトが呟くこととは。邪気竜エレサーレをも浄化して、帰途につく鞠絵たちのあとに、残ったものは。

第143話です。

 マ・コトは私の腕の中で、ぽつりとつぶやいた。

『あったかいね、気持ちがいいね』

 抱き締めた胸で、マ・コトがかすかに微笑んだのがわかった。

「マ・コト…」

『うん、分かった。わたし、お手伝いする。がんばる』

「ごめんね…休ませてあげられなくて、ごめんね」

『いいの。わかってたの。抱っこしてくれてありがとう…もう大丈夫』

 そして最後に小さな声で、おかあさん…、と囁く声がした。

 そして私の腕の中から浮かび上がり、天に向かって、すう…と飛んでいった。

 おかあさん。

 ナユのことを、最後に思ったのかしら。

 しかしナギは優しく苦笑して、首を横に振った。

『いいや、そなたのことであろうよ』

 えっ?私のことを、おかあさんって呼んでくれたの?

 私は少し照れくさい気持ちになりながら、マ・コトが去っていった先の空を見上げ、大きく息を吸った。

 ああ、そうだ。

 手伝ってくれた人たちに、きちんと御礼をしなければ。

 私は数度まばたきをして、黒鋼竜たちを振り返った。

「皆さん、ありがとうございます。皆さんのご助力のおかげで、浄化はすべて済みました。さぞお疲れでしょう、もう帰りましょう」

 しっかりとそう告げたつもりだったけれど、語尾に疲れがにじみ出てしまったかもしれない。

 私の言葉に風竜の長ミンティ・ラナクリフ様が、うんうん、と頷いてくれた。

「そうだね。私はまだ全然大丈夫だけど、黒鋼竜たちはずっと結界を張ってたもんね。みんな、お疲れ様」

 エリン様がほっとしたように微笑んで、私に向かってお辞儀をした。

「さすがは聖銀様でございます。国ひとつと巨大な邪気竜、それに捕らわれていた者たちすべてを、本当に浄化なされるとは…お見事でございました。今から報告が楽しみです」

 報告って、おばば様にってことかしら。

「それではゾロ・ハリルの背中に、ラナクリフ様と一緒に再びお乗りください。行き同様、私が先導を務めますゆえ」

「ありがとうございます、エリン様」

 ハリル様にも御礼を言ってその背に乗り込む前に、ほかの五頭の黒鋼竜たちにも、一人一人御礼を述べた。彼らは私を前にすると少しばかり頬を染めて挙動不審になりながら、礼を受け入れてくれた。

 エレサーレには敵わぬまでも、十分に大きな黒鋼竜七頭が翼を広げて羽ばたくと、周辺には風が巻き起こり土埃が舞い上がった。飛び上がるときだけはどうしても少し揺れるので、ハリル様の背中にしがみつくと、背後からラナクリフ様が被さって来て守ってくれた。

「さあ、戻りましょう」

 背後を振り返ってエリン様がそう告げると、七頭の黒鋼竜たちは来たときとは違う陣形をとり、領地に向かって羽ばたいていった。

 全員がいなくなったあと、ほんのひとかけらの邪気が舞い上がって集まり、小鳥よりも小さな塊となって、じわりと地中に潜り込んでいったのを見た者は誰もいなかった。(続く)

第143話までお読みいただき、ありがとうございます。

何やら邪気の塊が少し残っているような?

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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