第141話。邪気竜エレサーレと彼にとらわれた者たち、そして聖銀竜の子マ・コトを生まれ変わらせるため、歌う鞠絵。彼らを無事送ってやることはできるのか。
第141話です。
「それではあなたたちを送ります。また生まれ変わってこられるように」
『よろしく…頼む…』
エレサーレが頭を下げて、静かにそう言った。
私は頷いて、心の中でナギに語り掛ける。
ナギ、この人たちを浄化してあげたいの。力を貸してね。
『もちろんだ、マ・リエ。歌え』
私は目を閉じ、息を肺いっぱいに吸い込んだ。ラナクリフ様が私の背をそっと撫でてくれる。
彼女から心地いい風が流れてきて、私の髪を撫で上げた。
優しい風に微笑みながら、私は歌い始めた。
「黒き闇に包まれし者たちよ 光輝け
本来の輝きを取り戻し 黒き闇を振り払え
闇よ そなたらの役目はすでに終わった
静かに光の中に溶けて 消えてゆくがよい
光の中で微笑む者たちよ 本来の場所へと
もう一度この世に生を受けるため 戻ってゆくがよい
さあ 還れ 還れ 還れ
在るべき場所へ還って 眠るがいい
もう一度この世に生を受けるため 眠るがいい
優しい光があなたたちを包み込み いざなってゆくだろう
その光に導かれるまま ゆくがよい
さあ 還れ 還れ 還れ……」
巨大な白い骨に内包された邪気が、きらめく光に覆われてゆく。
「おおお…光だ…我らを導く、ひかり…」
邪気の中にいた大勢の者たちの気配が、光の中に溶け込んでゆくのが感じられた。
そしてそれは光ごと、白い骨の中から出てきて天高く昇っていく。
きらきらした細かい光の一粒一粒が、エレサーレの溜め込んだ邪気であり、またその中に閉じ込められた人々の魂であるのだろう。
数えることもできぬほどの細かい光の粒子が抜け出ていくと、真っ黒な邪気が詰め込まれていた白い骨の中は、ぽっかりとあいた、ただの空間になった。
『おおぉ…マ・コト様ぁ…いま、いまわたしもぉ、参りますゆえぇ…』
二つの月と星々が輝く漆黒の天に向かって、今や邪気の詰まっていないただの白い骨となったエレサーレが高く首を上げる。
『生まれぇ、変わって…きっとぉ…あなたの、お傍にぃ…』
その声が終わらぬうちに、巨大な白い骨は細かい光の粒子に覆われて、輪郭を崩した。
さああ…と音がしそうなくらいの地上の天の川が、天に向かって駆け上がる。
気づくと、私たちの周りには人々がたくさんいた。半分透けている彼らは、私たちに向かって一様に膝をつき、祈りを捧げているように手を組んでいたり、土下座をしていたりしていたが、皆ぼろぼろと涙を流していた。
その先頭には王様と王妃様らしき者たちがやはり膝をついていて、私たちに向かって手を組み深々と頭を下げた。
彼らはきっと、エレサーレの中に閉じ込められていた、お城の人たちなのだろう。さっき光になって昇っていった魂たちの、想いのかけらだろうか。
彼らからは何の声も聞こえなかったが、やがて空気に溶けるように透けていき、細かなたくさんの光の粒となって、上空に昇っていった。(続く)
第141話までお読みいただき、ありがとうございます。
やっとエレサーレたちを送ってやれたようですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




