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第14話。傷を負ったペガサスを癒そうと歌う鞠絵。その後街へ入る。

第14話です。

「あの、もしかしたら私が治してあげられるかもしれません」

 思い切ってそう言い出してみると、ぐにゃりと垂れ下がった首を少しだけこちらに向けて、エルが億劫そうに口を開いた。

「そなたが…?治癒の魔法の、使い手なのか?だが…たとえそうだとしても、病を…治せる魔法はかなり、高度なものと聞くぞ?」

「魔法じゃないです…いや、魔法なのかもしれないですけど。試しに少し、そこでじっとしていてくれませんか?」

「…いいだろう。急ぎだが…少しでも病が、この体が…よくなる可能性がある、というのなら」

 私は両手を胸の前で組み、ルイとダグが見守る中目を閉じて集中した。

 この人はこれから領主様のところまで行かなければならないという。翼が折れてしまっては、それはとても大変なことだろう。少しでもこの人の体の辛さがよくなりますように。

 その思いをこめて、私の中のナギに語り掛ける。

『ねえナギ、ナギ。私、この人を癒してあげたいの。あなたの力を貸して』

 しばらくして、ナギから細い返信があった。

『我の力を使え、マ・リエ。お前の心の赴くままに』

『ありがとう、ナギ』

 私は口を開いて歌い始めた。

「おお 我が内なる力よ この者の苦しみを祓いたまえ」

「歌?歌って…どうなると、いうのだ」

 ひどくだるそうにエルはため息をついたが、私はくじけなかった。

 私の歌をダグとルイはただ黙って聞いていたが、獣が近寄ってこないように周囲に気を配ってくれているようだった。

 ごめんなさい、歌ったら獣を引き寄せてしまうかもしれないわね。でも私はこの方法しか知らないし、他に薬も手段もないのなら可能性に賭けたい。

 例え、少しだけでも。

 でも歌い始めても何も起こらない。私は焦りながらも、必死に気持ちを籠めて歌い続けた。

 この人の苦しみを、癒してあげたい。

 だって病気はとても苦しいもの。お母さんだって、とても苦しそうな時があった。そんな時は私は病室の外に出されて、先生や看護師さんがバタバタと色々な機材を病室に持ち込んでいくのを、胸が締め付けられる思いで見ているしかなかった。

 だから。

 病気のこの人を、癒してあげたいの。楽にしてあげたいの。

 お願い、ナギ。

「我にその力あるならば

 どうぞこの空馳せるものを 空の上に戻されん

 大きく羽ばたくその翼 はためいて空を駆けよ

 おお 我が力よ この空の眷属にどうか癒しを」

「マ・リエ、エルが光り始めたぞ!」

 そう声をかけられて目を開ければ、エルの全身がゆっくり金色に輝き始めている。

 わっやった!これならいけるかもしれない!

 私は胸の前で組んだ両手をぎゅっと握り締め、精一杯に心を籠めて歌った。

「おお…これは…」

 金色の光に包まれたまま、エルがその翼を広げた。折れたはずの右の翼も同じように。わあ、金色のペガサスみたい。すごく、綺麗。

「麗しき翼持つ偉大なるものよ

 その空への階段昇るべく その身を癒せ」

 私の歌が終わると、彼の光も収まっていった。残されたのは、折れた木々や飛び散った葉っぱの中に立つ、両の翼を力強く広げたタンポポ色のペガサス。

 彼はその見事な翼をバサバサと羽ばたかせて、幾度も首を弓なりに上下させた。足を踏み鳴らし、タンポポ色の尻尾を大きく左右に振る。

「これは…体が楽になった!なんということだ、素晴らしい…これでまた飛べる!礼を言うぞ、マ・リエとやら!」

「あの」

 この長い名前を持った人になら、私を鞠絵と呼んでもらえるんじゃないかと思って声をかけてみたが、エルが先程とは打って変わった大声で叫んだので、私の声はかき消されてしまった。

「そなたらはどこの者たちか!?」

 本当は大きな声の人なのかなあ、この人。

「我らは西の草原のユニコーンの村の者だ」

 ダグがそう答えると、エルは大きく頷いてぱっちりと開いた青い瞳で私たちを見据えた。

「わかった!この礼は必ずするが、とにかく私は一刻も早く領主様のところへ赴かねばならぬ!ありがとうマ・リエ、助かったぞ!そなたの力のことも領主様にご報告せねば。それでは皆の者、また後日会おう!」

 タンポポ色の大きな翼を広げたエルは、私たちが何か口を挟むこともできぬほど一息に語ると、バサッバサッと翼を羽ばたかせて空中に飛び上がった。大きな馬型が持ち上がるほどの翼の羽ばたきに激しい風が巻き起こり、私たちが思わず顔を背けてまた戻した時には、エルの姿はもうそこにはなかった。

 見上げると、黄色いペガサスの姿が夕刻の光に照らされてはるか上空に見えたが、それもあっという間に見えなくなってしまった。

 さすが速いんだなあ…と私が感心していると、溜め息をついたダグが口を開く。

「ペガサスは勿体ぶった話し方をするくせにせっかちでいかん。礼もそこそこになど」

「それくらい急いでいたってことでしょ?ともかく、治してあげられたみたいで良かったわ」

 ほんとに良かった。今までは何だか私の中のナギに引っ張られる感じで歌って皆を癒してあげられてたけど、今回は私自身の意思でやることができた。この力をコントロールすることができれば、もっとたくさんの人たちを救ってあげられるかもしれない。

「荷馬車と残してきた者たちが心配だ。戻ろう」

 ビリーがそう言ったので皆頷き、私はまたルイについたままの鞍に跨らせてもらって荷車に戻った。そろそろ陽が沈もうとしている中、ヒト型になったカイ、シル、サラによってテントが張られ夕飯の支度がされていた。

「こちらは大丈夫だったか?」

「ええ、何度か雷の音がしたけどこのあたりは大丈夫そうだったし日も暮れてきたから、野営の準備を進めていたところよ」

「そうか、それは助かる。ありがとう」

 全員がヒト型となり、シルとサラが用意してくれた食事を皆で摂りながら、私たちは彼女たちとカイに何があったのか話した。

 三人はひどく驚いていたが、私たちにケガがないことを何より喜んでくれ、そのペガサスが道中無事であるようにと祈りも捧げてくれた。

「シル、サラ、ご馳走様でした」

「いいえ。とにかく、あなたたちにケガがなくて本当に良かったわ。でもマ・リエ、あなたはまた誰かを救ったのね」

 そんなことをシルが言うので、私はあわてて両手を振って言った。

「そんな…私はただ歌っただけ…できることをしただけです」

「それにしても、助けられたそのペガサスもせっかちねえ」

「病気のことを領主様に伝えるために、急いでいたんでしょう…あっそういえば、これから行く街に領主様っているの?」

 私が思い立って聞くと、ビリーが首を振って否定した。

「いや、我々の村から近いあの街はそんなに大きくないから、領主様はいない。領主様がいるのはもっと遠い場所にある、大きな街だよ」

 するとダグがふと思いたったように声を上げた。

「そういえば、確かこの辺りの領主様は地竜だったな」

 えっ?地竜?それってミシャに聞いた真竜の一人ってこと?

「あの領主様がいるから、この辺りは大きな災害もなく治められていると聞く。それでも盗賊はいるし、特に只人には気を付けるに越したことはないがな」

「そうなんですね」

「ではそろそろ寝よう。寝袋は各々用意してあるな。それではお休み」

 そうは言っても見張りは立てるようだった。男性陣四人で交代でしてくれるというので、私は安心してミシャが用意してくれた寝袋で眠りについた。



 そしてその翌日の朝。

 街が見えてきた。ビリーはそんなに大きな街ではないと言ったが、こちらの世界ではユニコーンの村しか知らない私には十分な規模だ。もちろん、以前の世界で住んでいた街には敵わないけれど。

 私たちはまだ午前中早い時間に荷馬車ごと街に入り、行商のできる市場へと向かっていた。

 わあ、とてもにぎやかな街だ。たくさんの人が行き交っていて、静かなユニコーンの村とは違ってあちこちでざわめきが聞こえてくる。

 それにしても色んな人がいるなあ。この世界に混じりものが多いと聞いてはいても、こうして目の当たりにすると感心する。

 今通り過ぎた人は動物の尻尾があった。形からして猫系かしら。あっあの人の頭の上には獣の耳がある!これがいわゆる獣人ってやつなのかな。好きな人が見れば萌え、っていうやつなのかも。耳と尻尾は両方ついている人は見当たらないから、混じりものの印っていうのはどちらか片方に出るものなのかな。

 何となく残念。耳と尻尾と両方ある人がいれば、私がもといた世界のイラストとかで見る獣人そのものだったのに。

 それに、個人的にも見たかった。

 あら、あの人の手には鱗がある…私はビリーに聞いてみた。

「あそこにいる、手に鱗がある人なんだけど」

「うん?」

「あの人って、竜とかなんでしょうか?」

「ああ…いや、トカゲか亜竜との混じりものだろう。真竜との混じりものなどとても希少だから、こんなところにはいないだろうよ」

 いや…真竜どころか、その上の神竜、それも聖銀竜との混じりものがここにいるんですけど!?

 私は苦笑いを胸中に秘めて、そうなんだ、と頷いてみせた。

 するとルイが私をぐい、と引っ張ってそこから離れさせる。なに、誰か怖い人でもいた?(続く)

第14話までお読みいただき、ありがとうございます。

次回は街の中で行商したり過ごしたりします。

また読んでいただけましたら嬉しいです。

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