第139話。ナギの助言に従い、邪気竜エレサーレに話しかけてみる鞠絵。聖銀竜の子マ・コトが話す言葉と願いとは。そしてそれに対するエレサーレの反応は。
第139話です。
『マ・リエ、こう話してみるのだ』
えっ?
私はナギの言葉を聞いた。
ああ…それはいいかもしれないわね。
私はナギに教えてもらった言葉を、エレサーレに向かって話してみた。
「エレサーレ、マ・コトはこんなに怖がっているわ。それなら、あなたが傍にいて、守ってあげるのはどうかしら?」
エレサーレは鼻づらに白銀色の光をつけたまま、私に顔を向けた。
『どういう、ことかぁ…』
「あなたが生まれ変わって、邪竜ではなくまた黒鋼竜となれば、マ・コトをまた守ってあげられるんじゃないの?」
『………』
エレサーレはしばし、黙りこんだ。小さくまたたく光を触らぬようにそっと、白い骨の両手で覆う。
その姿は、まるで祈りを捧げているようにも見えた。
『生まれ…変わって…』
『うん、おじちゃん』
マ・コトが一生懸命に、白い骨の鼻づらに抱き着きながら言う。
『わたしが死んだあのとき、タマゴの中で苦しくて、苦しくて、出たら死んじゃうってわかっていたけど、どうしても苦しくて、タマゴから出たの』
まだ輪郭もできあがっていないような竜の赤子が、タマゴから這い出るとは。
どれほど辛かったことか。
私はマ・コトと一緒に涙を流した。
『タマゴから出たら…もっと苦しくて…体が痛くて痛くて、冷たくて…一生懸命這いずって…体がもう、動かなくなって』
私の周りの黒鋼竜たちも泣いている。私の背を守ってくれているラナクリフ様も、嗚咽は聞こえなかったが泣いているのがわかった。
皆、同じ竜であるのだ。その赤子の苦しみを、理解できるのだろう。
『でも…そのうち苦しくなくなったの。おじちゃんが来てくれて、抱きしめてくれたから。邪気の中でも、おじちゃんが抱っこしてくれてたから、わたしは苦しくなかった。こわく…なかった。でも…おじちゃんはずっと、体が痛くて心が辛くて、泣いてたんだよね。わたしの代わりに邪気に包まれて…泣いてたよね。ごめんね…ごめんね…』
エレサーレはじっと動かずに、邪気に覆われた白い骨の姿のまま、マ・コトの言葉を聞いていた。
『おじちゃんはいっぱいわたしにしてくれた…もういいから…あったかくて、きれいなところに行ってね…みんなも、連れていって…ね、おねがい』
「エレサーレ、マ・コトの願いを聞いてあげて。あなたは皆と一緒に生まれ変わって、聖銀竜のマ・コトの手助けをしてあげて欲しいの」
『………』
エレサーレは、ゆっくりと顔を俯かせた。
マ・コトの言葉は続いている。
『わ…たしは聖銀…だから、がんばら…ないと、いけ…ないの。もう一人のわたしと一緒になれば…きっと頑張れるし、兄弟だっているし…わたし…』
マ・コトの声が徐々に震えを帯びて、泣き声が混じり始めた。
『…や…だよう…やだよう。やっぱりこわい。こわいよう。ねえおじちゃん、そばにいて。いっしょに、いてよう』
『マ・コト様ぁ…このわたしはぁ…いつも一緒に、おりますゆえ…』
『ちがう、ちがうの。わたしが聖銀竜に生まれたときに、おじちゃんに傍にいて欲しいの』
『そ…それは…』
邪気竜となったエレサーレに、聖銀竜のタマゴの傍にいられるわけはない。だから。
私は必死の想いで二人に声をかけた。
「大丈夫よ、マ・コト。おじちゃんはマ・コトの傍にまた生まれてくるわ。もう一度黒鋼竜となって、マ・コトを守ってくれるわ。…そうでしょう、エレサーレ?」
私の中のナギも声を上げる。そうすべきだと。
それを伝えると、エレサーレは深い深い息を吐いた。(続く)
第139話までお読みいただき、ありがとうございます。
エレサーレはお願いを聞いてくれるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




