第136話。聖銀竜の子マ・コトに力を与えるため歌を歌おうとする鞠絵と、怒ってそれを止める邪気竜エレサーレ。彼をなだめて歌を歌い、マ・コトが目覚めたが…。
第136話です。
「わかりました。それじゃあマ・コトに歌を歌って、力を分け与えるけれど、邪魔をしないでね」
『歌…だとぉ』
しかし歌と聞くや否や、エレサーレは怒って大きく白い骨だけの口を開いた。
『さっき魂どもを解放せしめた、あの歌をまた歌うとぉ、いうのかぁ…それは許さん、許さんぞぉ…』
私はあわてて首を打ち振った。いけない、このまま怒らせてしまっては、何もできなくなってしまうわ。
『わたしはぁ…この国のすべての命を奪ったぁ…それは決して許されざること…けれどマ・コト様の命を奪ったこの国の王や王妃、それを支えるすべての者たちは許せぬゆえ…もうこれ以上誰一人として、開放するわけにはいかぬぅ…我が身の内に在る者たちは、最も罪深い者たちなのだぁ…』
エレサーレは巨大な白い骨の尾をバタン、バタンと地面にたたきつけた。そのたびに邪気が飛び散り、黒鋼竜たちは緊張して結界を強固にした。
首を打ち振るエレサーレに、私は必死に話しかける。
お願い、話を聞いて。少しだけでもいいから。
「違う、違うのエレサーレ。あの歌じゃないの。これから私が歌うのは、あなたが抱いているマ・コトに、あなたと話ができるように力を与えるためのものなの。ただ、それだけなのよ」
焦った私は思わずタメ語になったが、エレサーレはそれに気づかなかったようだった。
それどころか、彼は体中を揺り動かすのをやめて、じっと私を見つめてきた。
『ほんとう…か?』
「本当よ。あなただって、マ・コトと話をしたいって今言ったじゃない。それを叶えるための歌なのよ、決してそれ以外のことはないわ。お願い、信じて」
『………』
エレサーレはしばらく黙って私をただ、見つめていた。
何色だったかわからないその瞳の代わりに、白い骨の中に詰まった漆黒の邪気で。
『あなたはぁ…ナギ様で、あらせられたなぁ…』
やがて発せられた声は、恐れていたよりずっと穏やかなものだった。
『…わかった。それならばぁ、あなたを信じよう…歌うが、よい…』
「ありがとう、エレサーレ。マ・コトも喜ぶと思うわ」
私は息を吸い込み、黒鋼竜たちの輪の中で歌い始めた。
「ラララ…幼き者といえども その力は竜
はるか山々の尾根の彼方 光輝くは聖なる銀色の力
その姿 聖銀竜と呼ばれしものの形となれ
光をまとい 本来の姿を取り戻せ
幼くして届かぬ声も その姿なれば届くであろう
光るのは常に身の内に在る、そなたが持つべき力
その名はマ・コト 聖銀竜ナユとナギに通じる血の者
ナギの力もつ我が歌に応えて マ・コトよ目覚めよ
我が力もちて そなたに、マ・コトに本来の力与えん…」
エレサーレの胸元のあたりが、徐々に小さく光りはじめ、やがて小さいながらに強い光となって、白銀色に輝き始めた。
あそこに、マ・コトがいるのね。
己が胸元に現れた神気を驚いたように見つめるエレサーレの視線の中で、マ・コトの光はひとつの形をとって、ぽうと空中に浮かんだ。
それはとても小さい、けれど確かに聖銀竜の形をしていた。
『おおぉ…!あなたが、あなたがマ・コト…マ・コト様であらせられるかぁ…!』
エレサーレが、その小さな聖銀竜に向かって深々とお辞儀をする。
『おじ…ちゃあん』
発せられた言葉はとても幼く、半分泣いているような声をしていた。(続く)
第136話までお読みいただき、ありがとうございます。
とうとうマ・コトが目覚めましたね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




