表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/356

第136話。聖銀竜の子マ・コトに力を与えるため歌を歌おうとする鞠絵と、怒ってそれを止める邪気竜エレサーレ。彼をなだめて歌を歌い、マ・コトが目覚めたが…。

第136話です。

「わかりました。それじゃあマ・コトに歌を歌って、力を分け与えるけれど、邪魔をしないでね」

『歌…だとぉ』

 しかし歌と聞くや否や、エレサーレは怒って大きく白い骨だけの口を開いた。

『さっき魂どもを解放せしめた、あの歌をまた歌うとぉ、いうのかぁ…それは許さん、許さんぞぉ…』

 私はあわてて首を打ち振った。いけない、このまま怒らせてしまっては、何もできなくなってしまうわ。

『わたしはぁ…この国のすべての命を奪ったぁ…それは決して許されざること…けれどマ・コト様の命を奪ったこの国の王や王妃、それを支えるすべての者たちは許せぬゆえ…もうこれ以上誰一人として、開放するわけにはいかぬぅ…我が身の内に在る者たちは、最も罪深い者たちなのだぁ…』

 エレサーレは巨大な白い骨の尾をバタン、バタンと地面にたたきつけた。そのたびに邪気が飛び散り、黒鋼竜たちは緊張して結界を強固にした。

 首を打ち振るエレサーレに、私は必死に話しかける。

 お願い、話を聞いて。少しだけでもいいから。

「違う、違うのエレサーレ。あの歌じゃないの。これから私が歌うのは、あなたが抱いているマ・コトに、あなたと話ができるように力を与えるためのものなの。ただ、それだけなのよ」

 焦った私は思わずタメ語になったが、エレサーレはそれに気づかなかったようだった。

 それどころか、彼は体中を揺り動かすのをやめて、じっと私を見つめてきた。

『ほんとう…か?』

「本当よ。あなただって、マ・コトと話をしたいって今言ったじゃない。それを叶えるための歌なのよ、決してそれ以外のことはないわ。お願い、信じて」

『………』

 エレサーレはしばらく黙って私をただ、見つめていた。

 何色だったかわからないその瞳の代わりに、白い骨の中に詰まった漆黒の邪気で。

『あなたはぁ…ナギ様で、あらせられたなぁ…』

 やがて発せられた声は、恐れていたよりずっと穏やかなものだった。

『…わかった。それならばぁ、あなたを信じよう…歌うが、よい…』

「ありがとう、エレサーレ。マ・コトも喜ぶと思うわ」

 私は息を吸い込み、黒鋼竜たちの輪の中で歌い始めた。

「ラララ…幼き者といえども その力は竜

 はるか山々の尾根の彼方 光輝くは聖なる銀色の力

 その姿 聖銀竜と呼ばれしものの形となれ

 光をまとい 本来の姿を取り戻せ

 幼くして届かぬ声も その姿なれば届くであろう

 光るのは常に身の内に在る、そなたが持つべき力

 その名はマ・コト 聖銀竜ナユとナギに通じる血の者

 ナギの力もつ我が歌に応えて マ・コトよ目覚めよ

 我が力もちて そなたに、マ・コトに本来の力与えん…」

 エレサーレの胸元のあたりが、徐々に小さく光りはじめ、やがて小さいながらに強い光となって、白銀色に輝き始めた。

 あそこに、マ・コトがいるのね。

 己が胸元に現れた神気を驚いたように見つめるエレサーレの視線の中で、マ・コトの光はひとつの形をとって、ぽうと空中に浮かんだ。

 それはとても小さい、けれど確かに聖銀竜の形をしていた。

『おおぉ…!あなたが、あなたがマ・コト…マ・コト様であらせられるかぁ…!』

 エレサーレが、その小さな聖銀竜に向かって深々とお辞儀をする。

『おじ…ちゃあん』

 発せられた言葉はとても幼く、半分泣いているような声をしていた。(続く)

第136話までお読みいただき、ありがとうございます。

とうとうマ・コトが目覚めましたね。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ