第135話。邪気竜エレサーレに囚われていた城の者たちが持っていたもの、それは…。鞠絵が聖銀竜の子マ・コトと話をするように申し出たとき、エレサーレは…?
第135話です。
何度鎖を引っ張られ、形が崩れても、王様と王妃様は何度も人の形をとっては私とナギに許しを請うた。
その様子に、私の中でナギが驚きの声を上げる。
『驚いたな…彼らはほんのわずかだが、神気を持っているぞ』
えっ、神気を?人間が?
『そうだ。ヒトとは不思議なものだな…本来彼らが神気を持っているわけはないのに。八千年も苦しんで、彼らは周りの者を気遣いかばい続けることで神気を得て、わずかだが己らで自分を浄化している。だから形が少しだけ、人間のものに戻っているのだ』
ああ…人間って、そうよね。
悪いところもあるけれど、人に生き物に寄り添い愛し、時に驚くような力を発揮する。
その時、王様より細い女性の声がした。
王様に寄り添っている王妃様が声を上げたのだ。
『神竜に乗りたいと申し出たのはわたくしなのです…姿をほめられ、いい気になって王妃となり、その思い上がりに気づかぬまま陛下に何度も断られても頼み込み続けた、浅はかなわたくしが悪いのです。どうか…ほかの者たちはもう、許してやってくださいませ…』
『私と妃は残ります。ですから…』
ああ、この人たちを救いたい。
私の歌で救えるだろうか。
けれどそうしたとしても、エレサーレは決して許さないだろう。むしろ、もっと頑なになって、私の歌ですら拒むかもしれない。
そうなったら、マ・コトは。
…そうだ。
「そうだ、エレサーレ。それならば、マ・コトの話を聞いてください」
『マ・コト…だと…?』
「そうです。あなたがその胸に抱き続けている…ナユの子ども」
『この子は…マ・コトと…いうのかぁ…?』
「ええ。その子に繋がる者を通して、私が名付けたのです。あなた、マ・コトの話は聞いていないでしょう?私が力を貸すから、その子の言葉を聞いてあげてください」
するとエレサーレは、眼窩の中の邪気を白い骨からあふれださせた。
それは邪気に満ちた瞳を見開いたように見えた。
『この子とぉ…はなしが、できると…いうのかぁ』
それは本当に不思議そうに聞こえて、私は胸の前で握りしめた両手に力をこめて、一歩前へ進み出た。
私の前にいるエリン様が、ちらりと私を振り返る。あまり前に出るな、ということなのだろう。
でも今のエレサーレの口調を聞く限り、彼はマ・コトと話をしたがっているように思えたのだもの。
「私の力を、マ・コトに貸します。そうすれば、あなたはマ・コトと話をすることができるでしょう。最も、あなたが聞こうとしなければだめですけれど」
すうー、と空気が動く音がした。エレサーレが息を大きく吸い込んだように、私には感じられた。
『…この子は、もうずぅっと前から…わたしに、なにか話しかけ続けてぇ、いるのだ…。しかし何を言っているのかはぁ…わたしには理解できなかった…。その言葉が聞けるのであればぁ…聞いてみたい…』
そう、そうよ。その調子。
マ・コトがきっと、エレサーレの頑なな心を開いてくれる。だってずっと傍にいたのだもの。ずっと彼を、見てきたのだもの。
それは私にとって、王様たちにとって、マ・コトにとって、そして何よりエレサーレにとって、最後のチャンスに感じられた。(続く)
第135話までお読みいただき、ありがとうございます。
マ・コトはエレサーレと話ができるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




