第133話。八千年も苦しみ、自分を許さず、捕らえた人たちも許さず、たった一人で邪気の中に沈んでいた邪気竜エレサーレ。怒りを吐き散らす彼の中から現れた者たちとは…?
第133話です。
「エレサーレ、聞いてください」
『ぐおおおぉ…ダメだダメだぁ、コイツラは永遠にぃ、わたしのなかで苦しむのだぁ…』
「どうしてそんな…!」
『どうして、だとぉ…?』
エレサーレは私を目玉のない瞳でひたり、と見据え、冷たく言い放った。
『ヤツラはぁ…それだけの罪を、犯したのだから…当然で、あろう…?』
当然って。
『ナユ様のぉ…大切な御子を…ひどく苦しませてぇ…殺したのだから…その報いを、受けるのは…当然、だろうぅ…?』
エレサーレ。あなたは…。
そんなにも、辛かったのね。その子の死を見たのが。
八千年も苦しみ、自分を許さず、捕らえた人たちも許さず、たった一人で邪気の中に沈んでいるほどに。
けれども、もう…開放してあげて。
その人たちも、あなた自身も、お願い。
私は祈るような気持ちでエレサーレに話しかけた。
「でももう、あれから八千年もたっているのですよ?罪を償うのに、十分な時間でしょう?」
するとエレサーレは、口を少し開いて顎を引いた。
私には、彼がひどく驚いたように見えた。
『八千年…!そうか、そんなに時が経ったのかぁ…』
「そうですエレサーレ。だから…」
『ざまをみろ…!八千年もの間ぁ、わたしのなかで苦しんだ者たちよぉ…!これからも、おまえたちの魂を決して離しはせぬぞぉ…!』
ああ…駄目だ。
何を言っても聞こうとしないエレサーレに、私は悲しくなって唇を噛んだ。
どうしたらいいの。
どうしたら、彼に安らかに眠ってもらえるの。
その時、エレサーレの白い骨の胸のあたりから、ぼうやりとした影がいくつも現れて、揺らめきながら私のほうへとやってきた。
「あれは…なに?」
私を囲む黒鋼竜たちの中でも、私の前にいるエリン様が、少しばかり顔をこちらに向けて言った。
「邪気の塊です。結界を張っておりますからあまり近寄っては来ないと思いますが、ご注意を」
邪気の、かたまり?
でも私には、それはかろうじて人の形をしているように見えた。
ナギ、あれはなに?ただの邪気なの?
『いいやマ・リエ。あれはヒトだ。邪気にまみれ、その存在そのものも邪気となってしまってはいるが、確かにヒトの魂を感じる」
やっぱり…そうなのね。
エレサーレは白い骨だけの顎を大きく開け、己が胸から出てきた邪気に向かって大きな声を上げた。
その声は、憤怒と憎悪に満ちていた。
『キサマらぁ…勝手に出てくるなぞ、許さぬぞぉ…!すぐにわたしのなかに戻れぇ…!』
「待って、まってエレサーレ…!その人たちと、少し話をさせて、お願い!」
私の周りにいる黒鋼竜たちが、その人たち?と不思議そうに私を振り返る。
エレサーレは幾度も巨大な骨の頭を打ち振り、そのたびに眼窩や口から真っ黒な邪気が振りまかれた。黒鋼竜たちはそれを必死に結界で弾き飛ばす。
その結界がなかったら、きっと今ごろ私は真っ黒に染まって、エレサーレの中に取り込まれてしまっていたことだろう。(続く)
第133話までお読みいただき、ありがとうございます。
鞠絵はエレサーレから出てきた者たちと話ができるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




