第132話。ふるえる声をおさえつけながら邪気竜エレサーレに話しかける鞠絵。彼女が自分をマ・リエ・ナギだと名乗ったとき、エレサーレの反応は…?
第132話です。
◆ ◆ ◆
ああ…この人、もう目が見えていないんだわ。
「聖銀ちゃん」
「…ええ」
エレサーレにナユと呼ばれた私は、胸の前で組んだ両手をぎゅっと握って唇を噛み締めた。
きっと彼の五感は消えうせてしまっていて、ただ魔力や神気を探っているだけなのに違いない。
私の中のナギの神気は、とてもナユに似ているはず。性別が違っているけれど、融合した私が女性だから、きっとナユと勘違いしたのだろう。
今呼びかけた私の声も、声としてでなく感じ取ったのだろうけど、ナユの声とは違うとわかったのだろうか。
私はふるえる声を必死で抑えつけながら、もう一度エレサーレに呼びかけた。
「エレサーレ、聞いて」
『…お前はぁ、誰だぁ…ナユ様では、ないのかぁ』
その声はやはり声ではなく、頭の中に直接響いてきた。
舌もないのだから当然か。
私は息を吸い込み、彼にはっきりと伝わるように名乗った。
「私はマ・リエ・ナギ」
『…!』
彼が息をのむのが、はっきりと伝わってきた。なんと…と、小さく呻いたエレサーレは、白い骨の眼窩の部分をひたり、と私に向けてきた。
『ナギ様ぁ…あなたはぁ、ナギ様であらせられたかぁ』
「はい。私はナギと融合したマ・リエという者です。あなたと話がしたくて、ここに参りました」
素直にそう話しかけてみると、エレサーレはもう一度なんと…と呟き、白い骨の奥にある邪気をゆらゆらと揺らめかせた。
『思いぃ…出した…あのナギ様がぁ…もどって、いらしたのかぁ…』
この人、ナギを知っているのだわ。
ナギ、あなたはエレサーレを知っていたの?
『否、知らぬ。当時いた黒鋼竜たち全てを知っていたわけではないしな…。姉上の近くにいた、幼いか若い黒鋼竜たちのどれかであったのだろうが…』
ナギはそう苦笑したので、当時まだ若かったであろうエレサーレが、一方的にナギのことを知っていたのだとわかった。
「ナユの弟ナギと融合している私となら、話をしてくれますか?」
そう問いかけてみると、エレサーレは少し興味をひかれたように首を下げてきた。
『ナギ様のぉ…おはなしとはなにか…』
私は意気込んで、拳を握り話しかけた。
「あなたが抱え込んでいる邪気を全て開放して、あなたもここから解き放たれて欲しいのです」
ギギギ…と、真っ白い骨がきしんだ。
『なぁにを、言うかぁ…わたしのぉ、なかの連中をぉ…開放など、するものか…』
私の中の連中?
『マ・リエ、あの竜の体内の邪気から、まだたくさんの魂の気配がする』
ナギが私に囁きかけてくる。
そうなのね、エレサーレの中にも魂がいるのね。
おばば様が彼が魂を取り込んだ、と言っていたのを思い出す。
それならば余計に、彼を説得しなければ。(続く)
第132話までお読みいただき、ありがとうございます。
エレサーレを説得できるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




