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第131話。邪気竜エレサーレが、聖銀竜ナユへの想いを綴る。そしてその子を殺されたことで生じた、怒りと狂気。彼は必死にナユへ謝ろうとするが…?

第131話です。

 しばらくして、ナユ様は弟君のナギ様がいなくなってしまった、と私に打ち明けてくださり、ナギ様の代わりのように私を可愛がってくださった。

 その寂しそうなお姿に私の想いは募り、幼い想いは成長するにつれ私の中に根を張り育ち、大きくなったら告白しようと心に決めていた。

 しかし私が成人する前に、ナユ様は伴侶を得てしまった。しかもお相手が聖銀竜ともなれば、黒鋼竜である私に間に入り込むことなどできるはずもなく、ただ同じ聖銀竜のお相手を見つけられた彼女を祝福するほか、なかったのだ。

 でも私はそれでも良かった。

 ナユ様が、幸せであるならば。

 やがてナユ様が五つのタマゴをお産みになった時、私はそれを祝福し、ナユ様ご夫婦とともにそのタマゴを一生御守りしお仕えすると決めた。

 やがてナユ様の連れ合いがその崇高なる使命のなかでお亡くなりになると、私の決意はさらに高まった。

 連れ合いを失ったナユ様とその御子を、この命にかえても御守りするのだと。

 ああ、それなのに。

 只人の盗人などにちいさなタマゴを盗み出され、あまつさえ邪気のよどみの中に置かれて、苦しみ悶えた末にまだ孵化する前だというのに卵の中から這い出てきて、そのまま息絶えてしまった…などと。

 どれほど辛く、苦しかったことだろう。まだタマゴの中に在るべき幼子が、そのタマゴから這い出てくるほどに苦しんだと思うだけで、私のはらわたは煮えくり返った。

 どうして盗み出した盗人を…それを命じた王族を…邪気の中に置いた只人を…許すことができようか。

 そして何より、それを阻止することができずのうのうと盗み出されてしまった、この私自身が許せない。

 それでも只人のもとに妹エレサーヌと共に向かっている時は、まだ希望も持っていたのだ。すぐにお助けしてもとのタマゴ部屋にお戻しすれば、どうにかなるのではないかと。

 王族を引きずり出し、タマゴの居場所を聞き出し、いざその場に行って、そこが邪気だまりであったのを見た時の、私の心境を説明できる術があろうか。

 しかも、真っ黒な邪気の中にあったタマゴは割れて、その中からまだ形も整っていない御子が這い出したまま息絶えているのを見た時の、私の気持ちは。

 妹にこの場を離れるように言うのが、精一杯の理性であった。

 その後のことは、赤と黒とに記憶が塗りつぶされている。

 血の赤と、邪気の黒とに。

 そんな私の中で未だに光り輝く、ナユ様の御姿。

「ナユ様…!」

 私はその光に向かって、咄嗟に頭を深々と下げた。

 ずっと暗闇にいた心に咲いた花のように、射した光のように、その御姿は忘れていた感情を揺り動かした。

 嬉しい、嬉しい、嬉しい。

 けれどその感情と裏腹に、湧き起こってきたのは。

「ああ…申し訳、ございません…!」

 ナユ様に、このように謝罪できる機会が巡ってこようとは、思ってもみなかった。

 私は光にあふれる喜びの気持ちを引き裂くように湧き起こってきた、痛みを伴う罪悪感という強い感情に流されるまま、ひたすらにナユ様に向かって己が罪を詫び続けた。

 どれだけお詫び申し上げようとも、私の罪が許されることなどない。けれどせずにはいられなかった。ちいさな御子を大切に腕の中に抱いたまま、私は血の涙を流し頭を下げ続けた。

 ナユ様の、お言葉を待って。

 いいや、私にナユ様がお言葉をかけられるわけなどない。

 こんな、私などに。

 けれど待たずにはいられなかった。

「エレサーレ」

「…?」

 しかし、しばらくしてかけてくださったナユ様の御言葉に、私はふと違和感を感じた。

 魂をかけ愛した御方の御声を、よもや忘れようはずもない。

「ナユ、さま…?」

 私はおずおずと顔を上げ、黒鋼竜たちに囲まれたナユ様の気配を、もはや肉眼では見えぬ目で探った。(続く)

第131話までお読みいただき、ありがとうございます。

エレサーレに、鞠絵は何と声をかけるのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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