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第130話。邪気竜となったエレサーレの、ナユの子を殺した国への激しい憎しみとは。そしてそんな彼の中にある、密かな聖銀竜ナユへの想いとは。

第130話です。

 そう、活気ある美しい立派な大国であった。

 それを、私は滅ぼした。

 大切なひとの御子を殺した代償として、全ての生命を欲し、御子を死に至らしめた邪気のなかに沈めた。

 邪気から逃れて魂の平穏を得ることを誰ひとりとして許さず、がんじがらめに縛りつけて、永遠の苦悶のなかに閉じ込めた。

 死したる国の土地すべては生命を失い、木一本、草の一枚、虫の一匹に至るまで、何一つ存在しない荒野となった。

 今そこに在るのは、黒く渦巻く邪気のみだ。

 それでも、私の心は晴れることなどなく、誰よりも深い闇の中に沈んでいる。

 私のなかには、数え切れないほどの魂が存在している。最も近いところに憎しみの鎖でつないでいるのは亡国の王とその家族、側近たちの魂だ。

 そして私が邪気のなかで死したるときに、内に取り込んだ数多の魂たち。

 憎むべき、許せぬものたちの魂。

 消え去ることなど許さない。

 私が死したる後も、許さない。

 苦しむがいい、永遠に。

 許せぬ、許せぬ、許せぬ、許せぬ、許せぬ、許せぬ…。

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い…。

 この国のなにも、かもが。

 そして。

 何より許せないのは、この私自身だ。

 未来永劫、許されてはならないのはこの…私なのだ。

 そう、永遠に。

 ああ…御子よ、泣かないでおくれ。

 そなたはこの腕の中、唯一邪気のないところで、私が大切に御守りする。

 この揺りかごの中で、どうか穏やかに眠っていておくれ。

 愛しきナユ様のちいさな御子よ。

 私が離せば、あなたはあっという間に邪気に呑まれ、ちいさな魂は消し飛んでしまうだろう。

 そんなことは決してさせない。

 だから。

 何も心配することは、ないのだよ。

 そんなに声をあげないでおくれ。

 そなたが何を言っているのか私にはもうわからないけれど、決してこの腕の中から離しはしないから。

 絶対に、大丈夫だからね。

 そうして憎い者たちを縛りつけたまま、大切なものを抱いたまま、永遠にここに在るのだと思っていた。

 ああ、それなのに。

 私の前に、現れたのは。

「ナユ様…!」

 おお、我がいのち、我が愛。

 懐かしさのあまりに見た、幻影だろうか。

 幻影でもいい、そのお姿をもう一度感じることができようとは。

 幼い頃にそのお姿を見て以来、私は彼女の虜となった。はかなげで美しく、それでいて内面の強さを感じさせる、そのお姿を、ずっと目で追い続けるようになった。ほかの女など一切目に入らなくなるほどに。

 幼いながらも、それは真剣な想いであった。

 最初のうちは影からそっと見つめるしかできなかったが、やがてナユ様がお一人でいるときに限って、少し話しかけることもできるようになり、憧れのナユ様は私に微笑みかけ、話しかけてくださるようになった。

 それは二人きりのことであり、他の誰も知らなくとも、どんなに嬉しく誇らしかったことか。

 きっとナユ様にとっては、小さな子どもを少しばかりかまった程度のことであったろうけれど。私はそれでも良かった。(続く)

第130話までお読みいただき、ありがとうございます。

激しい憎しみの中でも、思い出した想いがありましたね。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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