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第13話。街へ向かう途中、危機に陥っているペガサスを救出する鞠絵たち。

第13話です。

「もしケガをしてもマ・リエがいれば安心だな!」

「何言ってるんですか、どうして私の歌で治るのかもわかってないのに、治らなかったらどうするんですか!」

「ははは、そうだなあ」

 街まではユニコーンの足でも半日はかかるということだった。

 そんな長いこと馬の背に揺られる私を慮ってくれたのだろう。普通の馬は右前脚と左後ろ脚、左前脚と右後ろ脚が対になって同時に着地する斜対歩という歩き方をするものだが、ルイは片方の前脚と後ろ脚を同時に出す側対歩という歩き方で、首を弓なりにして歩いた。心なしか得意そうに見えたけど、気のせいかな。

 この歩き方だと上下運動は少なくなるが前後運動は大きくなる。どちらがいいかと聞いてくれたので、私は前後運動が大きいほうが長距離には楽だと答えた。

 そのためか、途中でルイが疲れないようにと交代してくれたダグも同じ歩き方をしてくれた。

 そういえば、私がダグに乗せてもらうことになった時、サラがものすごく見てきたなあ。それはもう、羨ましそうに。ごめんねサラ。ほらでも私、ただの荷物だから。

 休憩を挟みながら街の傍までやって来た頃には陽は傾いてきていて、ダグは街の近くの森に皆を誘導した。

「ここで一晩過ごして、明日の朝に街に入る。買い物や取引を済ませて昼までに街を出れば、夕刻には村に戻れるからな」

 なるほど、そうだったのね。

 朝早く村を出て昼過ぎに街についても、取引を終えれば夕方近くになってしまう。それから戻れば夜も遅くなるし、皆が疲れてしまうだろう。

 ミシャが言っていた『支度』というのは、森で一晩過ごすために使うもののことだったのだと、私は改めて気が付いた。

「この辺りでいいか…ん?上から何か…」

 ひゅ~…と、何かが上から落ちてくるような音に、皆が森の上を見上げる。

 森の奥でバサバサバサ、と激しく羽ばたく音と、バキバキバキ、と木の枝が折れる音がした。すぐ近くではないけれど、音が聞こえる距離であることにダグは警戒した声で言う。

「な、なんだ!?見に行くぞ、ルイ!」

「わかった!」

「ビリーとカイは荷物を見ていてくれ。シルとサラはそこから動くな!」

「はいっダグさん!」

「わっ私も行きます!」

「ではマ・リエ、ルイの鞍に跨ってしっかり捕まってろよ!」

 三人で恐る恐る音がしたほうに行ってみると、うう~、と呻く声が聞こえてきた。まさか、誰かが空から落ちてきた?

 音を頼りにその場所を探すうちに、ガサガサガサ、と周囲からたくさんの気配がしてきた。

「まずいな…フォレストウルフが集まってきたぞ」

「フォレストウルフ?なんですかそれ?」

「森に棲む狼だ。血の匂いがしてるから、この辺にいた狼たちが集まってきたんだ」

「えっそれって」

 危ないんじゃ…と私が口にする前に、少し先でバリバリ、ピシャーン!と激しい音がした。光ったし雷?でもお天気なのに、ここにだけ雷が落ちた?

 同時にキャイン、とイヌ科の動物の悲鳴が聞こえて、私たちは光った方角に向かって走った。すぐ先にいたのは、落ちてきたらしき動物と、それを取り囲んでいるフォレストウルフたち。

 狼たちの中心に葉っぱや枝を下敷きにして座り込んでいるのは、夕方の光に照らされて金色に見える、黄色い毛色の馬だった。

 えっユニコーン?と思ったけれど、違っていたのは額に角はなく、その背に毛色と同じタンポポ色の翼があったこと。

 こっこれは…ペガサス!!

 ペガサスが落ちてきたの!?

 この世界に来てユニコーンの次に出会った生き物がまたしても馬系だったことが衝撃だったけれど、私は立ち上がろうともがく彼がひどく辛そうなのが気になった。

 あと、ペガサスって純白なんじゃないんだ…がっかりしてる場合じゃないけど。ユニコーンと同じように、色つきが普通なんだろうか、この世界では。

 けれどその翼は右側がだらりと垂れ下がってしまっていて、明らかに折れてしまっているとわかった。

「…ひどい…」

 人でいったら汗だくになって、折れた翼を垂らし立ち上がろうと前脚で地面を掻くタンポポ色のペガサスは、その青い瞳で狼たちをキッと睨んだ。同時にパリパリ、とその全身に電気のようなものが走る。

 さっきの雷はこのペガサスが放ったものだったんだ。狼たちは怯んで数歩下がったが、包囲網を解こうとはしなかった。このままでは、翼が折れている上に立ち上がるのも辛そうなペガサスがやられてしまう。

「ルイ、ビリーを呼んで来い!早く!」

 ダグの指令にルイは私を下ろして走り去っていった。彼は速いから、すぐにビリーがやってくることだろう。ジリジリと包囲網を狭める狼に、ペガサスはピシャーン、ともう一度放電した。キャイン、と悲鳴を上げた数頭が下がったけれど、他の狼は動かない。

「まずいな」

 二回放電したペガサスは首を下げてはあっ、はあっと荒い呼吸をした。明らかに弱っている。ケガだけでなく、他の原因もありそうだった。もう放電できそうにないと踏んだ狼たちが、一斉に腰を下げてとびかかる準備にかかった、その時。

「ダグ!待たせたな!」

 鹿毛の大柄なユニコーンが飛び出してきて、あっという間に狼たちの群れに突っ込んでいった。同時にダグも飛び込んでいく。

「マ・リエ、そこの木に登っていろ!ルイ、お前はマ・リエを護れ!」

 そう言われて私は傍の太い木に登り始め、ルイはその木の下についてくれた。彼はまだ若いし狼と戦う経験なんてないだろうから、危ない目にあわせないようにしてくれたのだろう。

 狼の群れに突っ込んだダグとビリーは、その長い角で狼をなぎ払い、二つに割れた大きなひづめを踏み鳴らして狼たちを追い払った。後ろから食いつこうとする狼を、その太い後ろ脚で蹴り飛ばす。

「ギャイン!」

「キャン!」

 この狼たちは混じりものではなく、普通の狼のようだった。ひづめで蹴られ角で引っかかれて、狭まっていた包囲網が見る間に広くなる。

 ユニコーンの角は非常に危険な武器ともなる。森で暮らす野生の狼がそれに刺されたら、死ぬか瀕死の怪我を負うだろう。

 ペガサスを後ろに頭を下げ角を向ける大柄な二頭のユニコーンに怯む狼たちが尻込みをした、その時だった。

「ルイ!」

 ルイが鞍をつけたまま私の横からぱっと飛び出して行って、その輪に加わった。純白のルイは若くてまだ細いが体は大きい。チラリとルイを見たダグとビリーは、すぐにペガサスを中心に三角形になるように陣を組み直し、三頭で角を構えてひづめを踏み鳴らした。

 更に、中央にいるペガサスが少し休んで力を取り戻したのか、またパリパリ…と全身に雷をまとわせ始める。

「グルル…」

 雷に加えて、ユニコーンが三頭になっては勝ち目が薄いと判断したのだろう。フォレストウルフたちはじりじりと後退し、やがて森の奥へと走り去って行った。

「…もう、大丈夫そうだな」

 下げていた頭を上げてダグがそう言うと、ビリーとルイもほっとしたように緊張を解いて、私を呼んだ。

「大丈夫だったか、マ・リエ。傍についていろと言ったのにルイ、お前は全く…」

「すみません。でもマ・リエは木の上だったし、こちらには狼が気づいていなかったので」

「まあ、あの場合は助かった。お前もなかなかやるな」

 ダグに誉められて、ルイは嬉しそうに翠の瞳を細めた。

「あそこで狼たちを蹴散らせなかったら、マ・リエのほうも危ないかと思って。ところでその人…」

 雷は収めたけれど、未だに緊張が解けない様子のタンポポ色のペガサスは、私たち四人の視線を受けてよろよろと立ち上がった。

「…礼を言う、地を駆ける…遠き同胞(はらから)よ。…だが…私には近づくな」

 はっ、はっと荒い息をつきながら、男性の苦しそうな声がした。

 同胞?同じ馬系だから?

 私は立ち上がったペガサスの足元を思わず見た。ひづめの先は…割れていない。

 あっこっちはひづめが一つだ。てことは普通に馬なんだ。いや翼があるから普通じゃないか。でも白くないんだよなー。

 偶蹄目と奇蹄目が親戚なんだ?まあ、角と翼以外、パッと見はそっくりだから…アリなのかな?

「あなたは誰か。何故ここに?」

 ダグが警戒つつそう声をかけると、年配のビリーがそれを抑えて、優しい声を出した。

「翼が折れてしまっているではないか。骨折にも効く薬がある。我らはあなたに危害を加えたりはしないから、心配されるな」

「…いや…そうではない。…すまない。私はエルドラッド・パリスという」

 あっペガサスは名前長いんだ!

「エルと呼んでくれ」

 えっやっぱり普段は二文字なんですか?なんで?

「私はユニコーンのビリー。こちらの黒毛はダグ、白毛はルイ。女性はマ・リエという」

 ビリーがペガサスの自己紹介に丁寧に答えた。

「ではエル、近づくなと言われるが…そんなケガを放ってはおけない。そも、あなたは何故空から落ちてきたのか?只事には見えないのだが」

 エルに言われた通り近寄らないようにしながらもビリーがそう聞くと、苦し気にはあはあと息を吐くエルはだらりと首を下げたまま答えた。

 辛そうなのに、二度も雷を放ったから消耗しているのだろう。

 ペガサスって雷を操れるんだなあ、と私は今更ながらに感心した。

「私は…病気なのだ。南の雷虎の村が病に侵されたと報告を受けた故…それを調べに村まで赴いた。…村の状況はひどいものであった…それを…領主様に報告に向かうべく急行しておったのだが、…どうにも私にも…病がうつったようでな。…苦悶の末飛行がままならなくなり、無様にも…落ちてきてしまった。…このままでは、もう飛べぬ…。だが走ってでも、領主様に…お知らせせねば…ならぬ」

 苦し気に息を吐きながらそう言って、よろりと一歩踏み出そうとするエルは、とても辛そうで見ていられなかった。

「はらからよ、せっかく助けてくれたのに、そなたらにも…病がうつってしまうかもしれぬ。だから…私からは離れておるが良い。…声をかけてもらって…申し訳ないが、私はもう…行かなければ。さらばだ」

 行くって、そんな体で!?

 しかも右の翼は折れてしまっているじゃない。

 私はほぼ無意識に声をかけてしまっていた。

「ま、待って、待ってください!!」

「マ・リエ?」

 もしかして、もしかしたらだけど。

 私はミシャたちの事件のことを思い出していた。

 あの時、私の歌が皆を治した。あの時はお母さんのことを思い出して気が遠くなり、気が付いたら歌い出していたから、自分の意思で歌い出したらどうなるかわからないけど。

 この人を、ちゃんと癒してあげられるのかわからないけど。

 もし、できるのだとしたら。(続く)

第13話までお読みいただき、ありがとうございます。

次回は傷ついたペガサスを癒してやれるのか?

また読んでいただけましたら嬉しいです。

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