第128話。邪気が祓われた大地の上にたたずむ、巨大な邪気のかたまりの黒鋼竜のしかばね。鞠絵たちがそのしかばねに近づいていくと、なんと…?
第128話です。
「夜中だから、邪気が一番活発化してる。だから今なら、エレサーレと話すことができると思うよ。どうする?これで良しとして帰る?それとも…彼と話す?」
ラナクリフ様が、私を抱き締めたままそっと囁いてくる。
「きっと、怖いと思うよ。彼はまだ、邪気をまとったままだから。どうする、聖銀ちゃん?」
そんなこと。
わかりきったことだわ。
私はラナクリフ様の肩をそっと押して離れ、振り返って私の周りを飛ぶ黒鋼竜たちを見回した。
気配を察したのか、先頭のエリン様が私を振り返る。
「皆さん。お願いです、地上に下りてください。あのしかばね以外の邪気は祓われています。できるだけしかばねの近くに、下りて欲しいんです。…できますか?」
するとエリン様は私に向かって頷き、重々しく口を開いた。
「もちろんです、聖銀様…マ・リエ殿。今の地上になら下りることができましょう。あのしかばねの邪気からも、あなた様を御守りいたします。我々にお任せください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします、皆さん」
すると前後左右、上下から、オー…という低い声が重なって聞こえてきて、黒鋼竜たちが結界を張り直したことがわかった。
そのままのフォーメーションで、黒鋼竜たちは少しだけ位置をずらしてから、ゆっくりと降下を始めた。二つの月が照らしだす暗い大地にもう邪気はなく、黒鋼竜たちはしかばねから少しだけ離れた位置に下り立った。
大柄な黒鋼竜のエリン様の向こうに、さらに巨大なしかばねが見える。
不自然なほど白い骨だけになってさえ、エリン様よりはるかに大きい。
ハリル様の背中から私とラナクリフ様が大地に降りると、黒鋼竜たちは皆ヒト型となった。私たちの近くへ小走りにやってきて、私とラナクリフ様を囲む。
「移動はこのままでお願いいたします。もう少しだけなら近くへ行けますので」
あのしかばねの中にまだ在る邪気から、私たちを守ってくださるのね。本当に有り難いわ。
「ありがとうございます。では限界まで近くにお願いします」
私たちがゆっくりと歩いてゆくと、表面を黒く渦巻いていた邪気が祓われて骨だけの姿となっていたエレサーレの首がギギギ…と動いた。
えっ!?骨が、動いた!?
ギシギシギシ…と音をたてながら、骨だけとなったエレサーレの頭が、大地から持ち上がってゆく。息をのむ私の目の前で、それは全体が巨大なゆえ高い位置まで持ち上がって、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
肉もない、瞳もない、けれど彼がこちらをギラリ、と睨んだのがわかった。
二つの月に照らされて、奇妙に真っ白な骨の竜の頭が、私たちに向かって伸ばされてくる。
頭の中に詰まった邪気に近寄られて、背筋にゾッとしたものが走り、私は思わず立ち止まった。背中にラナクリフ様のあたたかい手を感じて、ようやくまた歩き出せたが、足はふるえていた。
邪気…命奪うもの。
恐ろしくないはずなどない。
それが詰まった、骨だけになった巨大な竜が、こちらをにらんでいるのだ。
「ここで止まりましょう」
私を守るように両腕を広げ、エリン様が立ち止まった。
彼からは、私たちを必ず守る、という気迫が感じ取れた。
その時、骨の竜エレサーレから、低い声が聞こえてきた。
声帯がないのに…どこから聞こえてくるの?
『だぁれだぁ…せっかく捕まぁえておったのにぃ、魂を逃がしおってぇ。許ぅさんぞぉ…』
所々間延びしたような、不自然なこれは…エレサーレの声?
巨大な黒鋼竜の骨の中は黒々とした邪気が渦巻いていて、このしかばねの中までは私の歌でも祓いきれなかったのだとわかる。
こんなことは初めてで、私はぶるり、と身を震わせながら、ぎゅっと両手を握り締めた。(続く)
第128話までお読みいただき、ありがとうございます。
鞠絵はエレサーレと話をすることができるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




