第127話。大地を覆う黒き邪気を黒鋼竜の背の上に立った鞠絵が歌で祓う。その時聞こえてきた声とは。果たして邪気を浄化することはできたのか…?
第127話です。
間違えて投稿しましたので、修正いたしました。失礼いたしました。
「この国の邪気を全部祓ったんだよ!私もこんなにうまくいくと思ってなかったんだけど、聖銀ちゃんはすごいねえ!やった、やったー!」
きゃっきゃっとはしゃぎながら私を抱き締めたラナクリフ様は、ハリル様の背中の上でぴょんぴょんと私ごと跳ねて喜んでいた。
本当に…やり遂げたの?私?
私の声をラナクリフ様が国中に風魔法で広めてくれて、この広い国をまるごと、浄化することができたというの?
本当に?
その時私の頬をかすめるように、小さなホタルのような光がいくつか近づいてきた。
そして、その存在よりも小さな小さな声が、本当にかすかに、しかし確かに聞こえた。
『あり…が、とう…』
と。
『やっと…眠れ…る』
これはなに?誰の声?
かすかな声はある時は一つで、ある時は重なって、またたくように少し大きく小さくなりながら、しばらく私の耳に囁かれ続けた。
その声がどれほどの時間、聞こえていたかわからない。
ほんの一瞬だったかもしれない。
けれど、どの声も感謝を伝えてきていて、安堵の気配をまとわせていた。
私の頬に、水滴が一滴、感じられた。
涙は水に還ったのかしら。
私は本当に皆を開放してあげられたのかしら。
やはりにわかには信じることができなくて、私はおそるおそる、ハリル様の背中から下を覗き見てみた。
相変わらず黒鋼竜のしかばねは存在していたけれど、そのしかばねの上や大地の上に渦巻くように在った邪気は全てなくなっていて、二つの満月に照らされた大地がしん…と静かに広がっているだけだった。
本当に…邪気が消えている。
私たち、やり遂げたのねナギ。
『ああ、そなたはよくやった、マ・リエ』
そんなこと。
私はあなたの力を声に乗せて歌っただけよ。
それを広めてくださったのはラナクリフ様だし。
『いや、そなたは頑張った。今もてる我の力を最大限に引き出し、国中に光を届けたのだ。この大地に邪気と共に縛りつけられていた魂は、これで在るべきところへ還ったことだろう』
ああ…本当に。
開放してあげることができたのね。
あの広大な邪気の大地に渦巻いていた、多くの生命。
八千年もの長い長い間、この地に縛りつけられていた生命たち。
その苦しみから、私が…いえ、私とナギと、ラナクリフ様と黒鋼竜たちとで、解き放ってあげることができたなんて。
私は感動して、私を抱き締めるラナクリフ様の腕の中にへなへなと体重を預けた。
「大丈夫、聖銀ちゃん?」
「え…ええ」
「あれだけの力を発揮したんだもんね、無理もないよ。でもね、まだ邪気が残ってるんだ…わかる?」
ええ、わかるわ。
私たちの真下…あの巨大な黒鋼竜、エレサーレ・カルダットのしかばねから…まだ、祓いきれない邪気を感じる。
それに、マ・コトがまだ開放されていないのがわかるわ。
マ・コトは自分からエレサーレのもとに留まっているのかと思っていたけれど、もしかしたら、エレサーレがまだマ・コトを離していないってことなのかもしれない。
彼は…彼らはまだ、あそこにいるのね。(続く)
第127話までお読みいただき、ありがとうございます。
鞠絵は見事に大地を覆う邪気を祓ったようですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




