第123話。ミンティと話をし、黒鋼竜の背中から地上を覗き込む鞠絵。そこにあった、邪気の渦巻く恐ろしい風景とは…。
第123話です。
「うん。一緒にがんばろうね、ナギ」
「?何か言った、聖銀ちゃん?」
結界が張られているためか、ハリル様の背の上は全くの無風だった。彼の背には硬く突き出したウロコが何枚もあって、私とラナクリフ様はそこに掴まっているのだけど、巨大な黒鋼竜の飛ぶスピードにも関わらず、落ちそうになることはなかった。
ヴェールをかき分けるように耳元で聞いてきたラナクリフ様に、私はくすぐったくて引っ込めた首を左右に振ってみせた。
「そう?すごく速いけど大丈夫?」
今度は首を縦に振って応える。
やめてラナクリフ様、首から離れて。くすぐったい。
「風の竜はねえ、これよりもっともっと、速いんだよー?すごいでしょー」
えっそうなの?これよりもっと?
私は素直に感嘆の声を上げていた。
「そうなんですね。それはすごいです」
「えへへー。今度、仲間の風竜に言って乗せてあげるね!」
「ええっ、本当ですか?」
「うん!」
この時、どうしてラナクリフ様が自分に乗せるとは言わなかったのか、私はいずれ知ることとなる。
しばらくの間、ほとんど揺れることもない背中の上でただ座っていた私だったが、ふと思い立ってそっとハリル様の肩口まで四つん這いで這って行った。
「聖銀様」
気づいたハリル様が私を振り返る。
「大丈夫、落ちないように注意しますから」
「それなら良いのですが…本当に、お気をつけください」
私ははい、と返事をして、そっとハリル様の翼の下を覗き込んでみた。
つまり、地上を。
そこには…何もなかった。
私を揺らさないようにとの配慮だろう、黒鋼竜たちはゆっくりと進んでいた。二つの満月に照らされた地上は遥か下にあったが、見渡す限り何の凹凸も見つけることはできなかった。
大きな国があったと聞いているのに。
建物も木々も、たくさんあったはずなのに。
地上はまるで、大きなローラーでならされたかのように、ただ黒い平地が続いているだけだった。
私の脳裏に、おばば様の言葉が蘇る。
『残ったものは何ひとつなく、瓦礫ひとつ許されず粉々になった』
ああ…本当だったのだ。
けれど、その大地には。
何か…何かが、存在しているように感じる。
これは何の感覚だろう。
「邪気が渦巻いているねえ」
私の後ろについてきたのだろう、ラナクリフ様が背後からひょいと顔を出し、後ろから私を抱き込むようにしながら地上を覗き込んでそう言った。
「はい…」
確かに地上には凹凸はない。
しかし、平面なそこには黒い何かがどろりと垂らされたかのように、ゆっくりと渦を巻いていた。
あれが…邪気。
滅ぼされた広大な国中を、一面の邪気が覆っているのだ。
それも、炎竜のところで見たものより、はるかに規模が大きく、濃度も濃い邪気が。
私はぞっとして、ラナクリフ様の腕の中で身を縮めた。(続く)
第123話までお読みいただき、ありがとうございます。
地上は恐ろしいことになっていましたね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




