第122話。鞠絵に見惚れる黒鋼竜たちに、出発の支度を頼む鞠絵とミンティ。出立し、鞠絵の周りに結界を張った、そのやり方とは。
第122話です。
◆ ◆ ◆
私は姿勢を正して大きく息を吸い込んだ。
「それでは行ってまいります、おばば様」
「私も!」
静かに微笑む私に合わせて、元気に手を挙げるミンティ・ラナクリフ様。
おばば様はひとつ頷き、一歩踏み出した。
ドレスを身にまとった私が黒鋼竜たちのところへ戻ると、待ちかねていた彼らは一斉に私を振り返った。
そして全員が一様にかたまる。あれ?
「皆さん?どうしたんですか?」
「そりゃかたまるよねー」
ラナクリフ様が笑いながら私に身を寄せてきて、ハテナマークを全身に貼りつかせている私の背を押した。
「こんなに綺麗なんだもん。男なら、見惚れなかったらおかしいよ」
「はい?」
「なーんでもない」
そこでラナクリフ様の声色が変わる。
無邪気な少女風から、風の竜の一族を束ねる者の声へと。
「さあ皆さん、私と聖銀様を邪気からお護りください。浄化が成功するか否か…全ては皆さんの御力にかかっています。どうぞ、よろしくお願いいたします」
私からもお願いしなければ。
「皆さん、どうか私たちに皆さんの御力をお貸しください。よろしくお願いいたします」
黒鋼竜たちはそこではっと我に返ったらしい。揃って背を正し、私たちに向かって頭を垂れた。
その中でもひときわ大きな、エリアスの息子エリンが進み出てきて、一頭の黒鋼竜を指し示す。
「彼の名はゾロ・ハリル。あなた方を乗せて行く者です。どうぞ彼にお乗りください。私は先頭を務めますゆえ」
まあ、それは有難いわ。
その申し出に私は頭を下げた。
「ありがとうございます。皆さん、危険な道のりとなりますが…重ねまして、どうかよろしくお願いいたします」
そう言うと黒鋼竜たちは全員が頷き、その黒く巨大な翼を広げた。
その姿は、とても立派で頼もしかった。
「さあ、私にお乗りください」
同じく翼を広げたハリル様の背に私は乗り込んだ。私を前に、ラナクリフ様を後ろに。
「では、参ります」
「気を付けて」
「姫様、お帰りを待っております」
おばば様とタニアに見送られ、七頭の黒鋼竜は二つの月と数多の星がきらめく、深夜の大空へと飛び立った。彼らが翼をほんの数度羽ばたいただけで、おばば様とタニアはあっという間に米粒のように小さくなる。
わあ…なんて、速い。
上空高く飛び上がった彼らは、中央のハリル様を包むように結界を張り始めた。
先頭のエリン様が頭をもたげ、空に向かって大きく咆哮した。するとハリル様の後方と左右、上下に飛ぶ六頭もオオー…と声を上げる。
目には見えなかったが、彼らの内から力があふれ出てきて、網を張るようにそれぞれが繋がり、やがて濃度を増してしっかりとハリル様の周囲を囲ったのがわかった。
まるで、私とラナクリフ様の乗ったハリル様を黄身として、空中にひとつの卵を持ち上げたかのように、黒鋼竜の結界は硬い殻となった。
『これからだな』
自らの内からナギの声がして、私は頷いた。(続く)
第122話までお読みいただき、ありがとうございます。
いよいよ出立ですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




