第120話。おばばとタニアによって着せられる、邪気祓いのドレス。ティアラや靴、装飾品までつけた鞠絵の美しさとはどれほどのものか。
第120話です。
「すごい…これが、邪気祓いのドレス…」
「全体に何らかの紋様があるのですね。強さこそ違えど、どの模様も光っていて綺麗です…」
エリアスは頷いた。
「布地そのものもそうですが、その紋様は呪文になっていて、邪気祓いの効果があるのですよ。黒鋼竜の女たちが、少しずつ神気をこめて織り作ったものですので」
「まあ…そうなのですね」
「ささ、靴はこちらですよ」
エリアスが差し出した靴もやはり白かったが、ドレスと同じように白い細かい模様が刻まれていて、所々に小さな真珠がちりばめられていた。
やはり、この靴も発光している。
これにも邪気祓いの効果が入っているのだろう。
「わあ、この靴もキラキラしていますね!」
「それからこれを」
そう言われて手渡されたものは、大きすぎない上品な大きさの真珠のネックレスとブレスレットとアンクレットだった。
「わあ…素敵です、おばば様」
感嘆するマ・リエの首と両方の手首、足首に真珠を巻きつけたタニアは、テーブルの上にあった半分透けた白い布を手に取る。
「これはヴェールですね」
ヴェールの縁には細かい刺繍がびっしりと、ぐるりと一周ほどこされていた。
「ティアラを使って留めるのですよ」
エリアスがそう言って、銀色のティアラを差し出してきた。小ぶりながらダイヤモンドのような宝石が中央につき、その周囲には細かいが宝石と思われる石が散りばめられている。
まるで銀色の麦穂を編み上げたかのようなデザインのティアラの左右にヴェールをつけ、マ・リエの青銀色の頭の上に乗せれば、頭の左右からヴェールが垂れてしっかりと固定された。
「これで、風の中でも大丈夫です。我らが結界で包んでいきますから、風に巻き込まれることはないですけれども」
エリアスが満足そうに、数歩下がってマ・リエのドレス姿を眺める。タニアもぴょん、と後ろに下がって眺め、うんうんと幾度も大きく頷いた。
「姫様、キラキラした真っ白なドレスと銀色のティアラが、姫様の白いお肌と青銀色の髪によく似合ってます!」
「ほかに色がない分、そなたのローズクォーツ色の瞳が際立っていて美しいのう。その瞳だけで、魔法が使えそうじゃよ」
「そんな…」
未だに、この姿をほめられることには慣れないマ・リエは、頬がじんわりと赤くなっていくのを自覚し、それをまた美しいと形容されて戸惑った。
実際その姿は、大地に舞い降りた小柄な女神のごとくの神々しさを放っていた。白と銀で統一された姿の中に、ローズクォーツ色の大きな瞳がくっきりと映えている。まるで自然の紅をひいたかのような唇はピンク色に潤みを持っていて、白くまろやかな頬には高価な頬紅を職人がこさえた紅筆ではたいたごとく、うっすらと天然の頬紅がさしていた。
それらの赤みはローズクォーツ色の瞳と相まって、王族のみが結婚式で着ることを許された婚礼衣装のように、銀と純白でしつらえられたドレスに映えている。
マ・リエは自分の姿を大きな鏡で見せられて口をぱっかりと開け、はああ…?と姿に似合わぬちょっと間抜けな声を出した。
「このドレスを着ていけば、どのような邪気の中でも大丈夫です。魔法がかかっていますからな、小柄なあなた様でもサイズはぴったりでしょう?」
得意気にエリアスが笑う。そういえばこのドレスは邪気よけのもの、誰が着るかもわからないのに、着た瞬間からやけにマ・リエの小柄な体にぴったりだった。大柄な人が着ることもあるだろうに…と少し不思議に思っていたのだが、着る者に合わせるよう魔法がかかっていたとは。(続く)
第120話までお読みいただき、ありがとうございます。
邪気祓いのドレスを着た鞠絵は綺麗ですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




