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第12話。街へ行商に行くための準備をする鞠絵たち。ユニコーンに乗るために鞠絵は少し苦労する。

第12話です。

そしてそれから一週間。

 私は頑張り、二着の毛糸作品を仕上げていた。

 一つは地味めの毛糸二色で編んだ袖なしのベスト、紺色を基調にベージュでラインを入れたもの。

 もう一つは細い明るめの黄色の毛糸をベースに何色か配色してさっくりと編んだ、五分袖のトップス。

 いやあ大変でした。編み物なんて久しぶりだったし、ほどいて編み直したりもしたので、ごはんの時以外は編みまくってたといっても過言ではないくらい。

 走れるようにまでなったキアがケリーとお茶やお菓子を持ってきてくれて、私が編むのを見ながら一緒にお茶をしたりもした。

 時々ルイもサラも覗きに来てくれて、でも私の邪魔をしないよう長居をすることはなかった。

 おかげでなかなかいいものが編めたよ…!

 こんなのでも売れるかな?売れるといいな。売れたらどうしよう。とりあえず、キアとルイとサラの家に御礼で分けようかなあ。ちょびっとずつしか渡せないだろうけど、気持ちだけでも。あとはおいおい、ということで勘弁してもらおう。

 暮らしていくうちに必要なものは大概この家の中にあったから、今のところお金が必要なことといったら食料を調達するくらいだけど…ごはん代を稼ぐにはまだまだかなあ。

 あ、でも砂糖は欲しいかな…配給みたいに皆が少しずつくれるけれど、お菓子を作って皆に振る舞いたいからまとめて買いたい。

 もらってばかりだと心苦しいけど、今の私は無一文なので頂くほかはなくて。

 だから少しばかりの期待を持ちつつ、私は集合場所の広場へ向かおうと家を出た。

「マ・リエ、今から行くんだろ?オレもだから、一緒に行こう」

 隣の家からルイが顔を出し、すぐに出てきた。今日も純白の髪が綺麗だ。それはそうと、パンパンに中身を詰めた大きなカバンを背負っているのだけど。

「わあ、たくさん持っていくのね」

「これはうちの野菜だよ。野菜ごとに分けてパックしたやつ。いつもそれなりに売れるんだ」

「そうなんだ」

「マ・リエもその袋の中に、編んだやつ入ってるんだろ?二着、出来上がったんだな」

「ええ。昨夜遅くに仕上がったの。サラやミシャやルイが、ここ二日ほどごはんを作りに来て片づけまでしてくれたおかげよ」

「オレたちは出来ることしかしてないんだから、気にするな。売れるといいな、それ」

「ええ、そうね」

 にっこり笑うと、ルイの白い肌がうっすらとピンクがかって見えた。こんなに白かったら、太陽に焼けて小麦色になる前に赤くなっちゃいそうなんだけど。

 私の世界にいた白い動物は日焼けして黄色くなっていたりしたけど、先日見たユニコーンのルイは純白だったし、ヒト型になっていてもその肌にシミひとつない。

 この歳まで畑仕事をしてて日焼けしていないって、いいなあ。

 前の世界で自分のお肌になんか興味もなかった私だけど、夏には紫外線避けのクリームを塗って病院に向かっていたことを思い出す。別に真っ黒になったっていいんだけど、日焼けすると毎日のシャワーの時ヒリヒリするのがイヤだったんだよね。

「…マ・リエは綺麗だ」

 ぼそりと、ルイが爆弾を落とす。以前の私だったらまた服のことかな?とか思っただろうけど、自分の容姿を知った今ではわかる。ルイと同じか少し下くらいに見えるしね、今の私。

 精神年齢はあなたより十歳は年上なんだけどね。

 だから、大人の対応として素直に微笑んで御礼を言った。

「ありがとう、ルイ。あなたの角も素敵よ」

「………」

 ルイは黙りこみ、顔を逸らして鼻の横の辺りをぽりぽりと掻いた。あからさまに照れているのが可愛い。私より頭一つ以上高い彼だが、その体はまだダグとかに比べるとひょろりとしていて、成長途上であることが窺えた。

 ダグを目標に鍛えているって言っていたから、そのうち筋肉がもっとついてくるんだろうか。

 そうなったら、真っ白なルイも女の子たちにきゃあきゃあ言われるようになるのかな。

 あれ。

 ちょっと、ほんのちょっとだけ、胸がちくりとしたような気がした。

 この真っ白なユニコーンを、私だけのものにしておきたいような…いけない、こんな考え。彼のためにならないよね。

「ルイ、マ・リエ!こっちよ!」

 サラの元気な声に、私は我に返った。

 広場にはそんなに大きくない荷馬車が二台と、それに各々繋がれた鹿毛の二頭のユニコーンがいた。この人たちが村長の言ってたカイとビリーね。未だヒト型で荷馬車に荷物を積んでいるダグとシル、私に手を振っているサラがいる。

 ルイと私も交えた五人で手伝えば、荷馬車はすぐに一杯になった。

「こんなもんだろう」

「村長」

「今回は大掛かりな行商ではないから、この荷車に入るくらいがちょうどいい。ひと月に一度は大きな荷馬車を二頭で引いたものを二台と、警備や向こうでの行商の者をつけるから、もっと大人数になるんだがね」

「そうなんですね」

「今回街が初めての者もいるし、マ・リエも行くのだから、このくらいでいいだろう。それでは皆の者、頼んだぞ。最近は只人の盗賊が出るという噂もある。道中気を付けてな」

「はい」

 そう返事をするや否や、私以外の四人はユニコーンの姿になった。並んだ二台の荷馬車の左右にダグとルイが、後ろにシルとサラがつく。

「お前はオレの背中に乗るといい」

 またしても純白のユニコーンに見とれていると、首をくりっと私に向けたルイが、自分の背中を鼻づらで示してそう言った。

「えっ!」

 しっ白いユニコーンに乗っていいんですか!?まるでお伽噺の絵本の中のお姫様になれるみたいなんですけど!

 沸き立つ胸中を悟られないようにしながら、私はそっとルイに近寄ってその肌に触れた。すべすべで温かくて、毛先にダイヤモンドの粉をはたいたような真珠色の毛並み。

 ああ…素晴らしいわ。

 こんな白毛が村では疎まれているだなんて。たった一頭しか、いないだなんて。

 群れで走る白いユニコーンが見たかった…。

「どうしたマ・リエ、乗れよ」

「あっ…そ、そうね、…というか、鞍も何もなしで!?裸馬になんて乗ったことないんですけど!」

 そう叫ぶと、ルイはムッとしたように翠色の瞳をすがめた。

「裸じゃないし。ヒト型になれば、ちゃんと服は着てる」

 いやいやそういうことじゃなくてですね。

「そうだな、マ・リエには鞍が必要だろう…集会所から持ってきてやろう」

「あるんですか?鞍が?」

「時々他の村と交流する時に、子供たちを乗せてやったりするもんでな。いくつかはあるよ。いつもは集会所の倉庫に仕舞ってあるのだ」

 言うが早いか、村長はユニコーンの姿になった。思った通りグレーの毛並みに黒い瞳をしていて、白い角が立派だ。

 あっという間に駆け去る姿を見送っていると、ルイが不満そうに私を角でつついた。

「マ・リエ。オレはお前を背中から振り落としたりしないのに」

「ごっ…ごめんなさいね、でも練習もなしに裸馬…いえ鞍なしの馬に乗るなんて、経験がなくて怖くて」

 鞍ありの馬になら、中学生の頃にお母さんが連れてってくれた乗馬クラブで、普通のサラブレッドに乗せてもらったことがある。まあ私は鞍に捕まって、厩務員さんと一緒にぐるりと一周してきただけだけれど。

 大丈夫かな…街までルイの背中に乗っていけるの?

 不安に思っていると、寄ってきたユニコーン姿のサラがそっと私に耳打ちした。

「ルイったら、マ・リエのことが好きなのね」

そう言ってくすくす笑うサラに、私はびっくりして聞いた。

「えっそんなこと、どうしてわかるの」

「だってユニコーンの男性が同族以外の女性をお嫁さんにするときには、背中に乗せて村に連れていくのよ」

「そうなんだ。でも今回のは違うと思う。荷車が荷物でいっぱいだから乗せてくれるって言ってるんでしょ」

 そう言い返しながらもちょっと胸はどきどきしてしまった。まるでこの姿に見合ったハイティーンみたいに。

 だめだめ期待しちゃ、相手は年下なんだから。

「でもダグさんがあなたを乗せるって言い出さなくてよかった~私ひやひやしちゃった」

「だから…私は荷物扱いなんですってば」

 と私は苦笑する。

「ユニコーンになれないんだから仕方ないでしょ」

「じゃあ鳥になって飛べばいいじゃない」

 ドキリ。

「そっそれは…私鳥のなり方ってよくわからないし…思い出してもいないから…」

 もごもごと弁解していると、背中に鞍を乗せた村長が戻ってきた。

「そら、持ってきたよマ・リエ」

 鞍を背にしたままヒト型に戻ったため、村長の背中から鞍がドサッと地面に落ちる。

「これを着けるといい。着け方を教えてあげるから、覚えるのだよ」

「はい」

「うー、オレ鞍好きじゃない…」

「我慢しろよルイ。マ・リエを乗せたいんだろ?それともオレが乗せていってやろうか?」

 荷車を挟んだ反対側から、ダグがそう声をかけてきた。わあ、体躯に見合った低くていい声。鹿毛のユニコーンになったサラがうっとりしつつも、ええ~っと声を上げた。

「うっうるさいな、ちょっと言っただけだろ!これくらい我慢できる!でもマ・リエ、鞍なしでもオレに乗れるようになれよな!」

 えっ乗っていいんですかこれからも?うわぁい嬉しい。

 隠しきれずにニコニコすると、ルイはピンクがかった目元の色味を濃くしてぷいと前を向いた。

「照れちまって。若いねえ」

「うるさい、ダグ」

 そうこうするうちに私でも鞍を締められるようになったので、あぶみに左足をかけ…ようとしたのだが、これがなかなかに高い。

「ねえルイ、少し屈んでくれないかしら」

「何だと面倒くさいな…ほら、これでどうだよ」

 馬って…いやユニコーンだけど…屈めるのかなって思ったら、ルイは四肢を折って腹がペタンと地面に着くように腹這いになってくれた。

「わあ、ありがとう!助かるわ!」

「ふ…ふん、早くしろよ」

 腹這いのルイにひょいとまたがった私が、鞍についている取っ手部分を掴むのを見たルイが、ゆっくりとお尻を上げてまず後ろ脚を伸ばし、それから膝立ち状態だった前脚を伸ばして立ち上がった。

「わあ、高い!」

「マ・リエ、あぶみにちゃんと足を入れなさい。取っ手をしっかり握って、離さないように。背中を伸ばして揺れと一緒に自分も揺れるようにするのだよ」

 子供にするように、村長が丁寧に馬の…否ユニコーンの乗り方を教えてくれた。私は頷いて、大丈夫です、と言った。

 あとは実地で覚えるしかない。無様に落ちたりしませんように。

「では出発だ。よき出会いを!」

「行ってらっしゃい」

「気を付けてね!」

 人々に見送られながら、二台の荷馬車と六頭のユニコーンと私は村を出発したのだった。(続く)

第12話までお読みいただき、ありがとうございます。

次回は森の中でとある混じりものに出会います。その人とは…。

明日の昼に更新予定ですので、また次も読んでいただけましたら嬉しいです。

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