第118話。タニアに邪気に沈んだ都市へは連れていけないと説得しようとする鞠絵。夜中に行くことを知って、タニアはますますついていくと言うが…。
第118話です。
「それでは私はお留守番、ということですか?姫様!」
「うん、そうなるよね。ごめんねタニア」
「そんな…!どうにか、どうにかならないのですか!?私はユニコーンの皆に約束しているのですよ?姫様のお傍を決して離れない、姫様は私がお守りすると…!」
「そうだけど。それはとても有り難いのだけど。でも今回は、私とラナクリフ様だけ守るのが精一杯だって、黒鋼竜に言われてしまっているの。だからタニアは連れては行けないのよ。お願い、わかって」
「しかし…」
しばし言い合いをした後、マ・リエはひとつ提案をしてみた。
タニアの言い分もわかる。自分だったら、やはりついていきたいだろう。だから。
「ねえ、タニア。私はきっと、へとへとになって帰ってくると思うの。だから、帰ってきた私がすぐに休めるように、部屋を整えて待っていて欲しいの」
「…それ、は…」
タニアは愚かではない。わかってはいるのだろう。
それでも傍にいなければ心配なのだ。それが、割り切れないだけなのだ。
しばらく俯いて考えていたタニアは、やっと吹っ切れたのか顔を上げた。
「…わかりました。それでは姫様のことは、同行する黒鋼竜とラナクリフ様を信じてお任せいたします。でも、こんなことは今回だけですからね?姫様」
「ありがとう、タニア。必ず無事に戻ってくるから、信じて待っていてね」
マ・リエの綺麗な微笑みにそれ以上何も言うことができず、タニアは複雑な表情で眉をひそめた。
この人を守りたい。
初めて会ったときから、タニアは彼女の魔力に惚れこみ、ずっとその傍で彼女を守ってきたつもりだった。具体的に守る、という状態にならなかったのは僥倖だったが、今回こそがそのときではないか、とタニアは思ったのだ。それなのに。
マ・リエの生命をおびやかすものから彼女を守るための同行が…まさか許されないとは。
タニアはマ・リエのためなら、自分の生命などどうなってもかまわないと考えていた。けれどそれをマ・リエが望まないのもわかっていた。
それに、自分が同行することで黒鋼竜の負担も増えることだろう。
だからこそ首を縦に振ったタニアだったが、マ・リエを守るという彼女の決意は、これでさらに高まったのだった。
「それじゃあ、よろしくね」
「はい、お気を付けて…姫様。姫様のご無事を、全力で祈っています」
「ありがとう。でも出かけるのは夜中だから、それまで一緒にいてね?」
「えっ夜中に行くんですか!?」
それを聞いて、タニアの不安は急激に膨れ上がった。しかしマ・リエはそうよ?ときょとんとした顔で首を傾げる。
青みがかった銀色の髪が、これから過酷な場所へと向かおうとする者とは到底思えない華奢な肩をさらさらと流れ落ちていくのを、タニアは呆然と見つめた。
「だって…邪気は夜中のほうが活性化するんですよ?それなのに…」
「だからこそ、夜中に行くのよ。邪気にとりつかれた者と話をするには、夜中が一番いいとおばば様が」
「それは…そうでしょうけど…」
「大丈夫!邪気からは黒鋼竜が守ってくれるし、私の歌はラナクリフ様が国中に届けてくださるわ。浄化さえできてしまえば問題ないでしょ?ね?」
明るい笑顔のマ・リエに向かい、タニアはもう何も言えなくなって大きく溜め息をついた。
自分は彼女の魔力だけでなく、この笑顔に骨抜きにされてしまったのだと、再確認しながら。
それでも本当にマ・リエが危険ならば、タニアはどんなことがあってもついていったろう。自分がついていくことが、逆に足を引っ張ることになるのだと知ったからこそ、彼女は納得したのだ。
「それじゃあ、夜まで何をして過ごしましょうか」
マ・リエの笑顔に引きずられるように、やっと少し微笑んだタニアは、そう言いながら椅子を引いた。(続く)
第118話までお読みいただき、ありがとうございます。
タニアが納得してくれてよかったですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




