第116話。国ひとつまるごと浄化するなどということが、本当にできるのかナギに問う鞠絵。おばばが提案する、その方法とは…?
第116話です。
『ナギ、国ひとつ浄化するなんてこと、私に…私たちにできるかしら?』
するとナギはほんの少しだけ黙り込んだが、ひとつ息を吐いて首を振った。
『我だけの力では、国ひとつの浄化など不可能だろう。しかしそなたの力があれば、もしかしたら可能かもしれぬ』
『もしかしたら?』
『うむ。そなたと融合して、我の力も高まっている。そなたの声を国中に届けることさえできれば、きっと可能であろうよ』
その答えに、マ・リエはエリアスを力強く見つめ返して深く頷いた。
「はい。あの子の願いを聞き届けてやりたいと思います。ナギもそれを望んでいます。私の声がどれほど届くものか、わかりませんが…危険は承知です」
エリアスは目元を緩めて微笑み、深く息を吐いた。
「そうですか…あれを、浄化してくださるか…」
ついに。
ついに、この時が来たのだ。
この領地に住む全黒鋼竜の願いであった、かの地の浄化の時が。
エリアスは潤んだ瞳をまたたかせ、マ・リエに力添えのための道を示すべく、扉に向かって手を差し伸べた。
「それでは、風竜の小娘を連れてお行きなされ。まだ出立していないでしょうから、今から声をかけに行ってください」
「ミンティちゃん…ラナクリフ様を?」
「そうです。風竜の起こす風を利用して、国中にあなた様の声とナギ様の御力を届けるのです。他の竜ではとても不可能なことでしょうが、あの小娘ならば話は別。その力は私が保証いたしましょうぞ」
『そなたの声を国中に届けることさえできれば』
ナギの言葉がマ・リエの脳裏によみがえる。
マ・リエはぱあっと顔をほころばせて、エリアスの両手をがっしと掴んで強く握り締めた。
「なるほど、その方法がありましたか!はい、わかりましたおばば様!すぐに行って参ります!」
「マ・リエ殿」
エリアスの真剣な声にマ・リエが振り返ると、彼女は強い眼差しでじっとマ・リエを見つめながらこう言った。
「あの国に行くのならば、邪気まみれのところに行かなければなりませぬ。国中の浄化が必要となりましょう。我ら黒鋼竜が結界を張り、あなた様とミンティを守るにしても、失敗すれば邪気が再びあふれ出てまいります。ミンティの風魔法に乗せて、一度であなた様の歌声にて邪気を祓わなければなりませぬ」
「はい」
「邪気は夜中のほうが活性化いたします。ゆえに、邪気にとりつかれた者と話をするには、夜中に行くほうがよいでしょう。その分危険も増しますが…」
「はい、承知しています」
そう頷きながら、マ・リエは己の内のナギにも問いかけていた。
『大丈夫よね、ナギ』
『うむ。黒鋼竜は邪気を吸い込むこともできるが、弾くこともできる。その神気でな』
「私はもう年ゆえに同行できませぬが、長男のエリンをつけましょう。前後左右、上下で六頭の黒鋼竜にて結界を張ります。七頭めに乗っていってくださればよい。黒鋼竜に伝わる、邪気祓いのドレスを用意いたしますので、当日はそれを着てお行きなされ。…十分に、気を付けて…」
心配そうなエリアスに向かって、花がほころぶようにマ・リエは笑った。それはまだ少女の姿の彼女に似つかわしくない、経験を積んだ大人の女性のような余裕を感じさせて、エリアスは改めてマ・リエがただの少女などではないと思い知った。
「あなた様とミンティを守るので手一杯となりますゆえ、お付きの雷虎の娘は今回連れていけませぬ。ご承知おきくだされ」
「あっ…そうですよね。わかりました、私から話しておきます」
タニアは嫌がるだろうなあ…と、マ・リエは華奢な顎に細い指をあててブツブツ呟いた。(続く)
第116話までお読みいただき、ありがとうございます。
タニアはついていきたがるでしょうね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




