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第114話。鞠絵が見た場所は巨大な国ひとつであり、行くならばそこをすべて浄化する必要があると言うおばば。その国が邪気にまみれてしまった悲しい理由とは…?

第114話です。

「おばば様、その場所がお分かりになるのなら、ぜひ教えてください。私たちはそこへ行って、彼らを開放してやりたいのです」

 エリアスは眉をしかめ、深いため息をつきながらまた下を向いた。

「しかし…あの場所なのだとしたら、それこそ国ひとつを浄化せせねばなりませぬ。いくら聖銀竜様といえど、あの広大な国を…」

「国?どういうことですか?」

 マ・リエに詰め寄られたエリアスは、しばらく逡巡していたが、やがて観念したように話し始めた。

 その内容はこうだった。

 大事な大事なナユの最後のタマゴ、五個のうち一つ、一番小さいタマゴを、黒鋼竜の気の緩みから只人に盗まれてしまった。

 探して探してやっと見つけ出したものの、タマゴはなんと邪気だまりの中に置かれていた。孵るにはまだ早いというのに、苦しんだヒナが必死にタマゴから這い出てきて、そのまま死んでしまったことに怒り狂った黒鋼竜の一頭が、その国中を滅ぼした。

 この聖銀竜の御方が生きていればどれほどの命を救ったことだろう、それはお前たちの命をもって償え…と。

 何故タマゴを盗んだのか。それは国の王様が竜を自分の乗り物にしたかったのだが、どうせなら神竜が欲しいと言い、タマゴのうちから育てれば自分たちのものにできるだろうという、なんとも自分勝手で愚かな願いからだったのだ。

 盗んだタマゴが黒鋼竜だと思い込んでいた只人たちは、黒鋼竜が邪気を吸い込めることから、きっと邪気だまりがエサとなるだろうと思い込み、なんと、国の端に存在していた広大な邪気だまりの中にタマゴを置いておいたのだ。

 哀れな小さな聖銀竜のタマゴは、こうして邪気まみれになって死んでしまった。

 そうとも知らず聖銀竜のタマゴを奪い返しに行ったのは、巨大な黒鋼竜エレサーレ・カルダットと、その妹エレサーヌ。

 そう、現在おばばと呼ばれるエリアス・カルダットの祖先にあたる兄妹であった。

 あまりの事実にエレサーレは怒りに我を忘れ、妹の制止も聞かずにその身にマ・コトを殺した邪気だまりを全て吸い込んで溜め、それを国中にブレスのように吐いた。

 そして兄にこの場から逃げるようきつく言われて飛び立った、妹竜エレサーヌが見たものは。


 幾重もの竜巻が街を襲う様だった。


 炎の竜巻、氷の竜巻、雷の竜巻、水の竜巻。

 全属性をもつ黒鋼竜の作り出したありとあらゆる竜巻が、国に存在する全てのものを巻き込み、切り裂き、


 国に生きる全ての生き物とともに、只人たちを滅ぼした。


 残ったものは何ひとつなく、瓦礫ひとつ許されず粉々になった。邪気まみれとなったエレサーレは、その大きな腕にタマゴから出てきた、ようやく竜の形をした聖銀竜のヒナ…マ・コトの小さな小さな片割れを抱いて、ほろほろと涙を零した。

「ああ…こんなになって。かわいそうに。かわいそうに。私がもっと早く来ていれば…申し訳ございませぬ、聖銀様…ああ…申し訳、ございませぬ」

 エレサーレはマ・コトの亡骸を抱き、泣きながら国中を歩き回った。

 真っ黒なタールのような、邪気を引きずりながら。

 彼が通った後は、また新たな邪気がまき散らされて、死の荒野となった。

 その身に邪気を大量に溜め込み、国を滅ぼすために力を使いきったエレサーレの命はやがて尽きたが、その怨念は残り続け、自らが滅ぼした国中をねり歩き続けた。

 その腕に、邪気で変形した小さなヒナのむくろを大切に抱いたまま。

 ヒナを助けられなかった無念が彼を泣き叫ばせ、未だについえぬ憤怒が彼を邪気の塊とした。

 広大な只人の国は草ひとつ生えない穢れた地となって、禁忌の地として忌み嫌われ、誰ひとり足を踏み入れぬ黒い毒の土地と化したのだ。(続く)

第114話までお読みいただき、ありがとうございます。

エレサーレをどうにかしてやることはできるのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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