第110話。夢をみる鞠絵、小さな影が名乗った名にナギと共に驚愕する。その小さな影が話す内容とは…?
第110話です。
『おじちゃんはわたしをたすけられなかったから、ずっとないてるの』
あなたは誰?どうして、そこにいるの?助けられなかったってどういうことなの?
『わたしはマ・コト』
えっ!
『なんだと!?』
私の中で、ナギが突然大きな声を上げた。
無理もない、その名は、私が名付けた聖銀竜の…ナギの姉、ナユのタマゴのひとつ。
魂が二つあると思ったタマゴにつけた名前だったからだ。
「そ、それじゃあ」
それじゃあ…あなたはさらわれたっていう聖銀竜のタマゴの子なの?
『名前をつけてもらったから、夢の中でならこうして話すことができるようになったの。ありがとう、おねえちゃん』
そんな…じゃああなたは、持ち去られて死んでしまったという聖銀竜のタマゴの魂、私が名付けたナユのタマゴの片割れなのね?
『うん』
私が名前をつけたからつながった。
…マ・コト。
じんわりとその名が私の中にしみ通っていって、私は目頭が熱くなるのを感じた。
それはナギも同じであったらしい。
孤独になったと思っていたさなかに出会った、実の姉が残したタマゴ。
自分の、甥や姪。
そのうちのひとつ、永遠に失われてしまったと思われた身内が、こうして話しかけてきたのだから。
その感動と喜びとともに、あらためて失われた身内への悲しみがナギの胸を押しつぶしていることだろう。
『それでは…』
唸るように、ナギがつぶやく。
そう。
それならばマ・コトを抱えているのは、きっと国を滅ぼしたという黒鋼竜に違いないのだ。すっかりと邪気に覆われて真っ黒な影のようになってしまっているけど、それでも守りたかった聖銀竜のタマゴをずっと、死んでしまってからもその腕に抱き締め、あやし続けているというのか。
邪気に幼子の魂が汚染されないよう、必死に守り続けながら。
マ・コトはそんな彼を助けたくて、魂となった今でもその一部分が留まり、自分ではなく彼のために助けを求め続けている。
本来ならまだタマゴから孵る前の、幼子だというのに…なんという慈悲の心だろうか。
私はマ・コトの母親のナユを思い出し、またナギの心が締め付けられる感覚も共有して、とうとうほろりと涙をこぼした。
『おじちゃんはわたしをたすけたくて、ここにきたの。でもだめだったから…わたしをだいて、ずっとないてる。わたしがたすからなかったのは、おじちゃんのせいじゃないのに』
マ・コトは幼い声を涙色に濡らしながら、私に訴えかけてきた。
『おねがい、おじちゃんをたすけてあげて。ずっとはなしかけているけど、わたしのこえはおじちゃんにとどかないの』
『そうなのだな、マ・コト。そこはどこだ?』
私が語り掛けるまでもなく、ナギが優しい声でマ・コトに話しかける。
『わたしがはこばれてきたばしょ。どこかはわからないの』
小さな影は必死にお願い、お願いとすすり泣いた。
そしてその声はどんどん小さくなってゆく。
『マ・コト…!』
ナギと共に、私は声を上げた。
待って、その場所はどこ…!?(続く)
第110話までお読みいただき、ありがとうございます。
マ・コトは応えてくれるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




