第106話。アトラス帝国内に新しいほころびができているのでは語る鞠絵、カルロスたちにその情報も集めるよう頼む。また魔法師たちに名前をつけてほしいと頼まれ…?
第106話です。
「帝国に、建国の王が光竜から領地を譲り受ける際に任せられたほころびがあるのは知っていましたが、それ以外に新しいほころびがあるかもしれないと思うのです」
一同は息を飲み、私を見つめた。水竜カルラ・エラストリだけが、きつく表情を引き締めた。
「エデルとレイアから聞いております。ほころびからあふれ出る虚無の混じった魔力、邪気。それによって隷属紋を打たれ、支配されてしまったと。聖銀様…マ・リエ殿は、その邪気の元となったほころびが、新しく帝国内に発生したとお考えなのですね」
「はい。そうかもしれない…ということですが。ナギが隷属紋の邪気は新しいものだと言ったので」
「なんと…」
「帝国の中に、新しくほころびが?」
「それは我ら長たちも掌握していないことです」
私はもと帝国の魔法師二人に向かって問うてみた。
「あなたがたは、邪気のこもった石を掲げた杖を持っていましたね。それは誰から与えられたものですか?邪気の出所について、何か知ってはいませんか」
二人は顔を見合わせたが、揃って首を横に振った。
「申し訳ございません、マ・リエ様。我らはあの杖を直属の上官より渡されただけで、邪気がこめられていること自体知らなかったのです。あの石を使えば水竜に隷属紋が打てる、そう教えられただけでしたので…」
やっぱり、そうよね。
それならば。
「帝国に入る皆さんには、帝国内のほころびに関する情報も集めて欲しいのです。お願いできますか」
カルロスはとても難しい顔をしていたが、それでも力強く頷いてくれた。
「はい、もちろんです。新しいものは噂話でも探れるでしょうが、古いほころび関しては上層部が隠ぺいしていてなかなか難しいかと思われますが…なんとかいたしましょう。ヴァレリア様の情報と並び、調べてまいります」
「ありがとうございます。何かわかり次第、報告に戻ってきてください」
「了解いたしました」
ユニコーンなら足も速いし、安心して待っていられる。六人が危険なめにあわないかだけが心配だけれど、きっとカルロスがうまくやってくれると信じよう。
「マ・リエ様。実は、お願いがございます」
魔法師の二人がそう頭を下げた。なんだろう。
「私どもは名がないのです。しかし今回マ・リエ様の下で働くにあたり、名があったほうが便利かと思いまして。何か、我らに名をつけてはいただけないでしょうか」
そうか、それで私と会ったとき、誰も名乗らなかったのね。
名前が今までなかったなんて…誰にも名前を呼んでもらえなかったなんて、それはきっととても辛かったことだろう。
大切な名前をつけるのに、私でいいんだろうか。
おばば様のほうが適任なのでは…と振り返ってみたが、椅子に座ったおばば様はにっこり笑って私を見つめた。
「つけておあげなされ」
「そうですね」
「この中で名を与えるのに最もふさわしいのはマ・リエ殿です」
「聖銀様に名付けられるなんて、光栄なことですよ」
長たちにも口々にそう言われて、私は少し赤くなった。
「わ…わかりました」
ええと…そうね…彼らの魔力は少し香りがするような気がするから…。
「それではあなたはラバン、あなたはシダーでどうでしょう」
エッセンシャルオイル…つまり植物からとれる芳香のある油、ラバンジンとシダーウッドからとってみたのだけれど。
すると二人はぱあっと顔を明るくして、嬉しそうに笑った。
「はいっ…はい、ありがとうございます。お救いいただいた上に名前までいただけて、本当に身に余る光栄です。ありがとうございます、女神さま…!」
あー、呼び方が女神さまに戻っちゃってる。でも気に入ってもらえたなら良かった。(続く)
第106話までお読みいただき、ありがとうございます。
魔法師たち、名前をつけてもらえてよかったですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




