第102話。地竜トリスラディのところにも、ナユのウロコは存在していた。しかしそのウロコとは…。そしてそれらから、ナユが残した情報を読み取る鞠絵は…。
第102話です。
こほん、とトリスラディ様がひとつ咳払いをする。
「聖銀様…いえ、マ・リエ殿」
「はい」
「会議の前にお会いしたかったのは、ご挨拶はもちろんですが、こちらをお渡ししたかったからなのです」
そう言って取り出したのは、幅二十センチほどの小箱。
あっ、もしかして。
地竜のところにも、ナユのウロコがあったの!?
「厳重に封印を施してございますが、聖銀様なら開けられます。本当はナギ様が目覚めてからと思っていたのですが、皆が聖銀様のもとへ集まると聞き、持参した次第です」
受け取ってみると、古いが艶やかな茶色をした上品な小箱は、ふたの中央に複雑な紋様が彫り込まれていた。きらびやかにデコられていた風竜のところの小箱とのあまりの姿の差に、つい笑ってしまいそう。
確かに鍵のようなものが感じられたが、開け…と心の中で念じながらふたを押し上げてみると、すんなりと開いてくれた。
その中にあったものは、やはりナユのウロコだった。しかも二枚、並べて入っている。
これで、十二枚。
しかし。
「あっ…」
それは確かにナユのウロコで間違いはなかった。しかしウロコのあちこちは剥げ、穴があいて、端はひどく欠けてしまっていた。
しかも一枚は、ウロコの三分の一ほどが紛失されている。
こんな状態のウロコを見るのは初めてで呆然としていると、箱の中身を覗き込んできたトリスラディ様が、おずおずと声をかけてきた。
「マ・リエ殿。大変申し訳ございません…聖銀様にお渡しすべく地竜に代々伝わってきた箱でございますが、中身がこのように欠損した状態であったとは…地竜の至らぬところでございました。お役に…たちますでしょうか」
あっ。いけない。
せっかく大切にずっと保管してきてくれて、今回それをわざわざ遠方から持ってきてくれたというのに、私ったら。
「はっはい、大丈夫だと思います。どちらも少し欠けてしまってはいますが、ほとんどは残っていますから…」
「それなら良いのですが」
眉をハの字にして心配そうなトリスラディ様に、私は微笑みかけて力強く頷いてみせた。彼は私のその表情を見てぱちぱちと幾度か黒い瞳をまばたきさせ、やはり黒いひげのある口元を少し緩めた。
「私は集まったウロコから情報を読み取ります。会議はその後でいいでしょうか。皆さんにも共有していただきたいので」
そう私が言うと、おばば様はもちろん、と頷いてくれた。
「では皆で夕飯をとった後に、七竜の長と私と聖銀様にて会議を開きましょう。それでいいですかな」
「はい。あの、ルシアンも同席して欲しいんです」
「ルシアン?何故ですか?」
私はおばば様に、ルシアンの本当の名前がわかったこと、彼が神金竜ヴァレリア様に関する情報を持っていることを語った。
おばば様はそれはもう驚いていたが、ナギがルシアンの真名を知っていたとわかると納得し、涙を流して喜んだ。
「それはそれは…あの子も開放されて良うございました。ありがとうございます、聖銀様。それでは神金様のことを聞くために、あの子も呼びましょう」
「我々も同席してもよいでしょうか。帝国のことを少しはお話できるかと思うのですが」
カルロスたちがそう申し出たので、私も一緒に頼みこんだ。帝国の情報は欲しいもの。
「わかりました。それではあなたがたも同席してください。では夕飯まで、地竜の皆さまは部屋へ案内させましょう」
私は自分の部屋へ下がり、集まった十二枚のナユのウロコをベッドの上に並べて中の情報を読み取った。一枚一枚、やわらかく響くナユの声と、見える姿に私の中のナギは目をこらし耳を澄ませ、じっくりと聞いているようだった。
一枚目のウロコの情報を読み取ったことでパスがつながり、二枚目からはすんなりとナユの声と姿を見ることができた。
ナギ、このウロコを持ってさえいれば、またナユの姿と声にいつでも会えるわね。
『ああ…そうだな。懐かしい姉上…また会えるのは本当に嬉しい』
ナギは優しい声でそう答えて、瞳を閉じた。
良かったね、ナギ。(続く)
第102話までお読みいただき、ありがとうございます。
ナユのウロコが集まってよかったですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




