第100話。黒鋼竜の子どもルシアンはようやく落ち着いて、鞠絵にお茶を淹れつつ話をする。一方、その日の夕方にペガサスに乗って到着した地竜アラル・トリスラディと風竜ミンティ・ラナクリフとのやり取り。
第100話です。
「ここはおばば様の館ですが、私は孫であるので幼い頃から出入りしていて、どの部屋に何があるのか知っているのですよ。このお茶はおばば様のお気に入りで、香ばしくて美味しいんです」
余裕が出てきたのか茶目っ気たっぷりにそう言って、ルシアンはお茶をすすった。
私もカップに口をつける。
わあ…確かにとてもいい香り。湯気と共に立ち上る香りが肺を満たし、それだけでほっとする気持ちになる。
一口すすると、やわらかな風味が鼻に抜けて、あたたかいお茶がとても美味しかった。確かにこれは刺激が少なくてあたりが柔らかくて、年を経た人にはちょうどいいお茶だろう。
「この館に来ると、私はいつもこの部屋でおばば様にこのお茶を淹れていたんですよ。今日は聖銀様…マ・リエ様に淹れて差し上げられて嬉しいです」
そう微笑むルシアンは本当にまだ学生みたいな感じだった。人間でいったら何歳くらいになるのだろう。お酒は飲んでいたけれど、とてもそんな歳には見えない。
でもそんな彼に、私は聞かなければならないことがあるんだ。
「神金竜の話でしたね。お話いたします」
そう言ってルシアンは背筋を正した。私も思わず背を伸ばす。
「我が一族は、神金竜ヴァレリア様にお仕えしておりました」
やっぱり、そうなのね。
「創世の頃、ヴァレリア様をお守りしていたのが遠い祖先、リュシエンヌです。ヴァレリア様が眠りにつかれるときまで見ておりましたので、その場所もわかります」
「本当!?」
なんてこと、それはとてもありがたいわ。これからどうやって調べようかと思っていたのに、ほころびを閉じることができる神金竜がいる場所がわかるなんて。
「ヴァレリア様は眠りにつかれる時、代々その名で記憶を受け継ぐと約束したリュシエンヌに申されました。それでは目が覚めたとき、また私に仕えてくれるか…と。リュシエンヌはもちろんですと答え、その約束を果たすべく、真の名前と記憶を紐づけて大事に持っていたのです」
そうなのね。だから真名を呼ばれて記憶が戻った瞬間に、ヴァレリア様のところに行かなくちゃって思ったのね。
ルシアンはぎゅっと両方の手を握り締めて、己が手に口づけるような仕草をした。きっと、リュシエンヌと代々名付けられた彼らにとって、ヴァレリア様と交わした約束は本当に本当に大切なものだったのだろう。
私は胸が締め付けられるような気持ちになった。
創世の頃、眠りについたヴァレリア様。あとを黒鋼竜である側近のリュシエンヌに託して。
その約束はリュシエンヌにとって、他の何よりも優先されるべきものだったのだ。
「それで…ヴァレリア様はどこに?どこで眠りについているの?」
するとルシアンは表情を引き締めて、私をじっと見つめて語り始めた。
その日の夕方には、「ここはおばば様の館ですが、私は孫であるので幼い頃から出入りしていて、どの部屋に何があるのか知っているのですよ。このお茶はおばば様のお気に入りで、香ばしくて美味しいんです」
余裕が出てきたのか茶目っ気たっぷりにそう言って、ルシアンはお茶をすすった。
私もカップに口をつける。
わあ…確かにとてもいい香り。湯気と共に立ち上る香りが肺を満たし、それだけでほっとする気持ちになる。
一口すすると、やわらかな風味が鼻に抜けて、あたたかいお茶がとても美味しかった。確かにこれは刺激が少なくてあたりが柔らかくて、年を経た人にはちょうどいいお茶だろう。
「この館に来ると、私はいつもこの部屋でおばば様にこのお茶を淹れていたんですよ。今日は聖銀様…マ・リエ様に淹れて差し上げられて嬉しいです」
そう微笑むルシアンは本当にまだ学生みたいな感じだった。人間でいったら何歳くらいになるのだろう。お酒は飲んでいたけれど、とてもそんな歳には見えない。
でもそんな彼に、私は聞かなければならないことがあるんだ。
「神金竜の話でしたね。お話いたします」
そう言ってルシアンは背筋を正した。私も思わず背を伸ばす。
「我が一族は、神金竜ヴァレリア様にお仕えしておりました」
やっぱり、そうなのね。
「創世の頃、ヴァレリア様をお守りしていたのが遠い祖先、リュシエンヌです。ヴァレリア様が眠りにつかれるときまで見ておりましたので、その場所もわかります」
「本当!?」
なんてこと、それはとてもありがたいわ。これからどうやって調べようかと思っていたのに、ほころびを閉じることができる神金竜がいる場所がわかるなんて。
「ヴァレリア様は眠りにつかれる時、代々その名で記憶を受け継ぐと約束したリュシエンヌに申されました。それでは目が覚めたとき、また私に仕えてくれるか…と。リュシエンヌはもちろんですと答え、その約束を果たすべく、真の名前と記憶を紐づけて大事に持っていたのです」
そうなのね。だから真名を呼ばれて記憶が戻った瞬間に、ヴァレリア様のところに行かなくちゃって思ったのね。
ルシアンはぎゅっと両方の手を握り締めて、己が手に口づけるような仕草をした。きっと、リュシエンヌと代々名付けられた彼らにとって、ヴァレリア様と交わした約束は本当に本当に大切なものだったのだろう。
私は胸が締め付けられるような気持ちになった。
創世の頃、眠りについたヴァレリア様。あとを黒鋼竜である側近のリュシエンヌに託して。
その約束はリュシエンヌにとって、他の何よりも優先されるべきものだったのだ。
「それで…ヴァレリア様はどこに?どこで眠りについているの?」
するとルシアンは表情を引き締めて、私をじっと見つめて語り始めた。
その日の夕方には、地竜アラル・トリスラディ様もペガサスに乗って到着し、これで七竜の長が黒鋼竜の領地に揃った。
「これで会議が開けるのう」
トリスラディ様一行を迎えて、私たちのいる部屋に一緒に入ってきたおばば様がそう言って、彼女に用意された椅子に腰かけた。
他の長たちは各々に与えられた部屋にいたけれど、何故か風竜ラナクリフ様だけが部屋にいて、地竜トリスラディ様にキャピキャピと笑いかける。
「前回からあまり間があいてないけど、黒鋼竜の領地でまた会うことになるなんて思ってもみなかったね!」
「そうですな、風殿」
「ここはごはんがほんとに美味しいんだよ~お昼なんて宴会だったんだから!大地ちゃんはいなくてもったいなかったね~あんまり美味しくて、ミンティちゃん感激しちゃった!」
「良かったですな、風殿」
相変わらずのラナクリフ様をあっさりといなして、トリスラディ様は私を振り返った。(続く)
第100話までお読みいただき、ありがとうございます。
とうとう100話まできました。お話はまだ続きますので、よろしくお願いいたします。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




